「司会者は、時代を映し出す小さな鏡」――。そう語るのは、鋭敏な語彙センスとボルテージの高い過激さで、独特の“古舘節”を確立したアナウンサーの古舘伊知郎氏。そんな古舘氏に「昭和の名司会者の活躍を生で見てきた自分だからこそ語ることができる」という“後世に伝えておきたいMCの歴史”について語ってもらった。

※本記事は、古舘伊知郎:著『MC論 昭和レジェンドから令和新世代まで「仕切り屋」の本懐』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。〔本文中、一部敬称略〕

情報量が“ひとりウィキペディア”-黒柳徹子-

大橋巨泉・タモリ・明石家さんま・笑福亭鶴瓶とならんで「昭和のレジェンドMC」として取り上げるのは、『徹子の部屋』でおなじみ、黒柳徹子――。

「今もですけど、あのたたみ込む情報量と記憶力のよさ。すごいですよね。『徹子の部屋』で30年前とかの昔の映像が出てくることがあるじゃないですか。若き日の徹子さんの情報量は、ひとりウィキペディアです。

『だってあなたは、ちょうど3年前かしら? 3年前にこんなことがあって。(中略)そこで子どもがコテンと落っこちゃって大変だったんでしょ』

ゲストが圧倒されるほどあらゆることを知っていて『そうなんでしょ?』って言われたら『はい』って言うしかないですよね。ほとんどオチまで言っていますから。(中略)

あれはトークじゃないよ。いい意味での取り調べです。早口で優しくて可愛いけど、やっていることは強面のベテラン刑事と同じ、あんなふうに追い込まれたら完落ちするしかないですよ……」

独特の“古舘節”で、このように黒柳徹子について語ったかと思えば、なんと「徹子さんはMC界の鹿島建設である」と述べる。

「コンクリートで基礎を造り、鉄骨を建て、外壁をつくる。もう外側はすべてつくってしまいます。ゲストの役目は内装です」――。

ここまで的確、かつ痛快に“司会者”としての黒柳徹子について語った人が、かつて存在しただろうか……? 

▲徹子さんの情報量は“ひとりウィキペディア” イメージ:PIXTA

あのどつきは闘魂ビンタ? -ダウンタウン-

人気芸人がハプニング込みでワクワクさせてくれる「司会」を担うようになり、ピンではなくツインの司会者が登場。複数人が協働する群衆化へと変遷を遂げた昭和〜平成。

バラエティをかき回す芸人・タレントMCとして活躍する、とんねるず・爆笑問題・今田耕司・中居正広・加藤浩次・有吉弘行などにならび、古舘が注目するのは、黎明期に目撃した漫才で、そのずば抜けた才能、尋常ではない面白さを感じたという、ダウンタウン――。

「『芸能人格付けチェック! 2020お正月スペシャル』に和田アキ子さんと組んで出たときのこと。浜ちゃんが司会で、俳優の桐谷健太君も出ていて、彼が浜ちゃんと仲良くてボケたり笑いを取ったりしていたんです。(中略)

面白いから横でニコニコ笑って見ていた僕が思わず『一歩踏み込んで、ちゃんとした迫力を持ってひっぱたいて、すごく仲良さそうっていうのは、あり得ない司会ぶり。お見事!』と実況調で褒めたら『古舘さん、分析すんのやめて。そこを言われると面白くなくなるから』と注意されました。

でも、どつく司会者なんて浜ちゃん以外にあり得ないでしょ。(中略)しかも、どつかれて喜ぶ人がいっぱいいる。“どつき”がちゃんと芸になっていて、儀式化しています。あれは、アントニオ猪木さんの闘魂ビンタとまったく同じですね」

浜田雅功のツッコミ(どつき)を、アントニオ猪木の闘魂ビンタと同列に論じることができるのは、まさに「古舘節」ならでは!

一方、松本人志に関しても、彼の大喜利、そしてMCを務める『ワイドナショー』でのエピソードを絡めながら「松ちゃんは、もう司会者のカテゴリーになんて入らない。『面白いことを言う人の権化』。分析不可能です」と、その鬼才ぶりについて語っている。

▲ダウンタウンには漫才でも尋常ではない面白さを感じたが… イメージ:PIXTA