インターネットの普及に合わせて、各国ではさまざまな政策が取られました。しかし現在は、GAFAMに代表されるようなインターネット企業に与えられた特権を見直そうという動きがあります。SNSによる誹謗中傷やフェイクニュースなど世界中に広まった「無責任な空間」は、今後どのように変化していくのか。国際政治アナリストで世界経済にも詳しい渡瀬裕哉氏が語ります。
※本記事は、渡瀬裕哉:著『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ-令和の大減税と規制緩和-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
責任が免除されたことによって起きたこと
グレート・ファイアウォールは、中国共産党が1993年に計画した国家政策です。
運用が始まったのは1999年、本格的に稼働したのが2003年です。中国は、世界中でインターネットが一般へ普及するのと歩調を合わせて、検閲システムの開発を行っていることがわかります。
中国共産党政府にとって、言論の自由があまりに広がると、政治体制を脅かす可能性があることが開発理由のひとつですが、もうひとつ、巨大な国内市場を活かして微博(ウェイボー)や微信(ウィーチャット)などの国内IT企業を育てたい、という産業保護政策的な意味合いもあります。
では、自由主義側はといえば、アメリカのグーグルやツイッター、フェイスブックなどが大きく成長しましたが、まったく政府から支援を受けていないわけではありません。
アメリカでも、インターネットの黎明(れいめい)期だった1990年代に、米国通信品位法が作られました。
通信品位法第230条は、IT企業やSNSなどのサービスメディアの発展促進をうたい、特にSNSなどのプラットフォーム運営企業は、投稿される情報や表現についての責任を免除されました。既存の出版社もさまざまな情報や言論が掲載されるという点は同様ですが、掲載した情報には責任を取らなければなりません。内容によっては、情報の対象となった人や団体から訴えられてしまうことがあります。
ところが、フェイスブックやツイッターに誰がどのような書き込みをしても、フェイスブック社やツイッター社は責任を負わなくてよい、という法律の例外規定ができたのです。
この免責が引き起こしたのは、フェイクニュースの氾濫です。誤った情報があふれかえっていても、責任を取る人がいないからです。
これが顕著に現れたのが2020年のアメリカ大統領選挙でした。「トランプ陣営が勝っているはずなのに、バイデン陣営が不正をして多数の票を獲得している」という趣旨の誤った情報が氾濫した結果、最終的には選挙結果に不満を持つ人たちが、アメリカ連邦議会議事堂を襲撃する事件に至りました。
産業の保護育成という面で見れば、中国もアメリカも、自分たちのプラットフォームを使うように仕向けていると言えますが、表現や言論の自由から見れば、両者ともに問題があります。
中国は、政府が載せてよいもの・見てはいけないものを決め、統制しています。これは明らかに問題です。アメリカは、それとは逆にプラットフォームビジネスを独占させることを意図して、免責特権を与えました。野放しにすることで歪(いびつ)な産業が育ったのです。
プラットフォームビジネスは出版や報道と同様に、言論や表現の自由のもと、編集権をもった運営者が情報の正誤について、責任をもって利用者に提供するのが本来の形です。まったくの虚偽情報が書き込まれ、他の人に悪影響を与えたのであれば、書き込んだユーザーだけでなく、SNS事業者が訴訟の対象にならなければいけないのです。
日本は、アメリカと同じような形となっています。通称「プロバイダ責任制限法」と呼ばれる法律では、権利侵害や犯罪などユーザーによる違法な情報で損害賠償が発生した際、プロバイダが責任を取らなければならない場合の条件が列挙されています。何か事件があったとき、プロバイダの責任の有無から争わなければいけないし、情報そのものが法に触れない場合は、各事業者の自主的な努力にのみ任されているのです。