2021年から日本全国で月3,000円のスマホ生活が可能になった。それも電話し放題、動画見放題のスマホ生活だ。そのうえ、このようなサービスを提供している携帯会社に乗り換えると『スマホ乗り換えで毎年5万円貯金できる』とくれば、にわかに信じ難い。
しかし、どうも本当らしい。海外から遅れること5年、日本の消費者も高い携帯料金から解放されて、海外並み(以上?)のスマホ生活を手に入れる環境が整った、ということのようだ。
ここまでたどり着けた最大の功労者は、菅義偉前首相だと言われる。そういえば2年前に菅内閣が誕生したとき、「携帯料金4割値下げ」を内閣の公約に掲げていた。
日本の携帯市場は、大手3社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)と総務省が結託し「日本の携帯料金は高くない」と言い続けて情報操作を行い、長年にわたって高止まりさせてきた、と著者の山田明氏は語る(このあたりの事情は著者の『スマホ料金はなぜ高いのか』(新潮新書)に詳しい)。
日本の携帯料金が値下げに向けて動き出した
総務大臣経験者で当時安倍内閣の官房長官であった菅氏は、海外の料金水準を調べ上げ、主管の大臣でもないのに地方での講演で「携帯料金は4割値下げ余地」とぶち上げた。
その後、安倍元首相が体調を崩し、菅氏が20年9月に首相に就任すると直ちに携帯料金値下げを公約に掲げ、「官製値下げ」と批判されながら、その実現に向けて一気に突っ走った。
そして20年末には、ドコモが大幅値下げプランを発表し、寡占仲間のソフトバンクとKDDIも、ドコモに追随する値下げのドミノ倒しが起きた。高止まりし続けた日本の携帯料金が値下げに向けて動き出した瞬間だ。
3社が値下げする1年前に日本の携帯市場に参入した楽天が、毎月0円の料金も可能とする画期的な料金プランで3社に立ち向かい、料金戦争をしかけたことも効いた。
菅氏の長く苦しい携帯料金値下げの闘いは、ようやく終盤を迎えたように見える。しかし闘いは終盤を迎えたどころか、まだ始まったばかりのようだ。昨年末の総務省の発表では、値下げプランを申し込んだのは契約者全体の2割(3,000万契約)にとどまる。
料金に敏感で、ITに詳しい若者やビジネスマンが申し込んだと言われているが、残り8割の契約者は旧契約のままで、料金も高いままだと言う。彼らは毎月7,000~10,000円を支払い続けている、と。
この値下げから取り残されているのが、ITに弱い中高年者と高齢者らしい。携帯大手3社は、昨年発表した大幅値下げプランの申し込みをネットでの申し込みに限定したため、中高年者や高齢者は値下げプランから締め出されるかたちとなった。
こんな経緯があるから、中高年者や高齢者は値下げ実現に大手3社を頼れない。彼らが頼るのは消去法で楽天になるが、楽天はタイミングよく郵便局と提携し、楽天モバイル郵便局店を3月末までに全国285店舗へ拡大したと言う。全国の中高年者や高齢者の近くに店を構えて、いつでもおいでというわけだ。
携帯市場の新参者で危なっかしいイメージがある楽天だが、楽天のクラウド型のモバイルネットワークは、大手3社より4割安く構築できるため、大手3社では到底無理な3,000円でスマホ使い放題が実現したというわけだ。
このような楽天の評価は、日本よりも先に海外で高まっているようで、日本の通信事業者の中で唯一、通信ネットワークの輸出実績を積み重ねている模様だ。携帯料金改革は料金値下げをもたらすだけでなく、新しい通信ネットワークの輸出を通じて日本経済に貢献することにもなりそうだ。
このネットワークを武器に、中高年や高齢者の値下げをどこまで実現できるか、菅氏が手掛けた携帯料金値下げの闘いはこれから本番を迎える。