ここ20~30年間、日本経済に明るい兆しが見られない。実際、2024年2月に名目GDPがドイツに抜かれて世界4位に転落。日本に見切りをつけて海外に出稼ぎに出る若者は少なくない。日本経済を低迷から脱して、希望が持てる国に再建するために必要なこととは?

3月15日に『減税救国論』(幻冬舎)を上梓したのは、かつて“変幻自在のトリックスター”の異名でK-1のリングで活躍した参議院議員の須藤元気氏。須藤氏が国会議員になった経緯を交えながら、国民が豊かになるための処方箋が記されている。ニュースクランチのインタビューでは、「日本経済が低空飛行を続けている要因」を聞いた。

▲須藤元気【WANI BOOKS-“NewsCrunch”-Interview】

インボイス制度は弱い者いじめ

須藤氏は不況を長引かせている“主犯格”として消費税を挙げ、その危険性を説明する。

「そもそも、税金は道路などのインフラを含む公共財や、サービスを提供するために国民から徴収しますが、加えて再分配して低所得者を救って“格差是正”を図る役割もあります。しかし、消費税は所得の低い人に負担が重くなる“逆進性”のある税制です。消費税は所得に関係なく平等に課されるため、必然的に低所得者の負担率は高く、格差は是正されるどころか拡大してしまいます」

消費税とは、所得税や法人税とは異なり、収入に関係なく徴収できてしまう。冷静に考えれば、かなり悪質な税金と言えるが、須藤氏はさらなる問題点を指摘する。

「あまり知られていないのですが、消費税は“大企業優遇政策”と言っても過言ではありません。大手企業の多くは輸出企業です。輸出企業は国内の下請け企業から製品を購入した際に消費税を払いますが、海外に製品を輸出したときには輸出企業に消費税は払われません。

輸出企業としては国内の下請け企業に対して消費税を“払い損”したことになり、不公正が生まれてしまう。そのため、製品を作る過程で国内の下請け企業に払った消費税を返してもらえる“戻し税”という仕組みが存在します。

輸出企業は海外に輸出した際に消費税の支払いが発生していないため、消費税を国に収める必要はありません。とはいえ、国内の下請け企業に支払った分の消費税を戻し税として返ってきます。

その一方、国内の下請け企業は、輸出企業とのやり取りで発生した消費税を収めなければいけません。中小企業は利益を削って消費税を支払い、輸出企業は消費税を払わず、むしろもらえる状況ですので、大企業優遇政策と言えるのです」

須藤氏は、この“輸出還付金”と言われるお金の流れを広く知ってほしいと語気を強めた。消費税に関する指摘は止まらない。2023年に話題を集め、2023年10月から開始された“インボイス制度”についても話してくれた。

「インボイス制度は、今まで消費税を納めなくてもよかった売上1000万円以下の小さな企業“免税事業者”に、消費税を納めるように誘導する制度です。コロナ禍や物価高の向かい風を受けながら、なんとか仕事を続けている事業者は多い。

そこにインボイス制度導入に伴う消費税の支払いが発生すれば、立ち行かなくなることは火を見るよりも明らか。インボイス制度が始まってから、自主廃業に追い込まれた小規模事業者も少なくありません。

また先日、建設労働者の雇用改善・賃上げを求める署名3856通を、全建総連江東支部から受け取ったときに“インボイス制度のために廃業しなければいけないかもしれない”という声が多い現状を聞きました。

インボイス制度は“弱い者いじめ”と言える制度であり、即刻廃止すべきです。そもそも、消費税が存在しているためにインボイス制度で苦しむ人が多いわけです。消費税減税は喫緊の課題と言えます」

1989年から導入された消費税。数回にわたって税率は引き上げられてきたが、数字だけではなく消費税の在り方について考えてみることも大切だ。

海外では珍しい日本の非正規雇用形態

さらに、須藤氏は格差を広げた要因として「非正規労働者が増加したことも大きい」という。

「1990年代後半から構造改革の名の下に労働者派遣法が改正され、多くの職業で派遣社員を使用してもよいことになり、非正規労働者が急増しました。ここでも消費税の話しになるのですが、正規雇用は“人件費”になるため仕入税額控除の対象外になりますが、非正規雇用は”仕入れ”になるため対象になります。消費税の支払いを減らすため、非正規雇用を増やすことは当然の流れです。

とはいえ、アメリカでは非正規労働者のほうが雇用状況が不安定な分、正規労働者よりも給料が良いというケースは珍しくありません。また、同一労働同一賃金の原則を守っている国では、雇用形態で賃金の差があれば勤労者はそれを訴えることもできるので不公平を是正できます」

“非正規労働者の増加=格差拡大”ではないが、日本は例外であるようだ。

「日本では非正規労働者の賃金は正規労働者の約6割となっており、世界的に見てもとても低いです。その背景には派遣会社の“中抜き”が影響しています。東京オリンピックでは、とある派遣会社がスタッフの給料から9割以上も中抜きしていたことが話題になりました。ここまでひどいケースは希ですが、3割近く抜かれることは常態化しています。

私は“派遣会社が悪い”と言っているわけではありません。同一労働同一賃金の原則を無視したり、必要以上の金額を中抜きしたりなど、非正規労働者を冷遇している現状は適切ではないと考えています。そういった派遣会社に対して“行政罰”を設けるなど、不当な働かせ方は取り締まらなければ格差は是正されません」

日本経済を低迷させている要因が見えてきた。とはいえ、消費税減税を始めとした政策を政府は実行しないのだろうか。

「昨年末から自民党の裏金問題が大きな注目を集め、大手企業にパーティー券を大量に購入してもらっている現状が明るみになりました。実際のところ、消費税は国民にとってはかなりの負担になっており、多くの国民が消費税減税を望んでいます。

しかし、大手企業にとっては消費税は輸出還付金になり得るため、パーティー券を大量に買ってもらっている自民党としては、当然、消費税減税には後ろ向きです。残念ながら、政治家は国民ではなく特定の企業を見て政治をしている状況が続いています」

そして、大多数の国民のための政治が実行されるために必要なのは、とにかく国民が声を上げることだ。

「政治家としても“どうしても議員バッチを外したくない”という意識は強い。国民の声が大きくなれば、政治家も国民に目を向けるようになります。具体的には、やはり政治家は人気商売ですので、SNSでの発信や政策に関する批判の声をどんどん上げていってほしい。

エゴサーチをしている政治家は多いため、声を上げることの効果は思っている以上に大きいです。とはいえ、あまり政治に期待感を持てない国民は少なくなりません。こういった現状を受け止め、政治にワクワク感を与えられるように活動していきます」

日本は民主主義のため、声を上げれば政治を、そして生活を変えることができる。裏を返せば、声を上げなければ何も変わらないどころか、ますます困窮してしまうかもしれない。まずは消費税についてどのような考えを持っているのかに注目して、政治家や政党を見るところから始めたい。

(取材:望月 悠木)