仕事モードから切り替えるための読書

ビジネスでの対処法を心得る本明だが、普段はどんな生活を送っているのだろうか? 彼のスケジュールを聞くと、どれだけ仕事と真摯に向き合っているかがわかる。

「5時間くらいしか寝ないんですけど、そうすると19時間くらい1日があるじゃないですか。例えば、今日でいうと、4時15分ぐらいに起きて5キロの散歩。それでシャワーを浴びて、洗濯して、新聞読んで、朝8時から打ち合わせをして、今に至ります。

インタビューが終われば、何本か打ち合わせをして、だいたい19時くらいまで打ち合わせして、 それで家に帰って、すぐにゴールドジムに行って帰って20時半。そこからご飯を食べて1時間か1時間半ぐらい本を読んで、それでもう寝る感じ。

生活するなかで仕事モードを1回消さないと、数字のことが頭から抜けない。だから小説とか本を読むんです。僕の中では生活と仕事って明確に分かれていないから。商売は時間との戦いなので、知識がないと今の世の中は食っていけない。だからこそ、情報をいかに入れていくかが重要です」

限られた時間のなかで仕事もプライベートも大切にする。これまで多くの本を読んで、日々、新聞も読み、常に情報収集を欠かさない。

「社会学も読むし、民族学も読むし、哲学も読む。禅など宗教についても読みます。新聞は最近少なくなったけど、日経新聞、朝日新聞、日経産業新聞、繊研新聞。あとは、東洋経済とNewsweekはチェックしていますし、きっとみんなが興味がないものに興味がある。デカルトやカント、ヘーゲルなんかも読みます」

活字中毒とも思える本明だが、全ては仕事モードを切り替えるためにしていること。話を聞いていると、人間の本質をさまざまな学問から学んでいるようにも思えた。活字から得た知識を自分の知層に蓄積し、ビジネスシーンで活用しているのだ。

スニーカー業界からおにぎり業界への参入

現在はアトモスを退社し、東京・大塚の老舗おにぎり屋「ぼんご」の右近由美子代表と共同で「こぼんご」という名の会社を設立し、新たなビジネスの舞台へと舵を切った。

「正直、やることがないからおにぎり屋をやったんだと思う。もっと頭が良ければ違うことをしていたと思うし、アメリカの株式市場へ打って出たかもしれない。でも僕は、おじさんとかおばさんとか、普通の人が好きなんですよ。人と喋ってるのが好き。物を売るということは、人に売るということだし。ロボットに売っているわけではない。普通の人が買ってくれないと、商売は干上がってしまうからね」

なぜ、おにぎりを選んだのか、そこにはどのようなビジョンがあるのか。このタイミングで業界を変えた理由を聞いた。

「美味しかったからですよ。ぼんごに行って、ここのおにぎりが美味しいと思った。これは真面目に言いますけど、由美子代表は天才ですよ。本当に、ぼんごのおにぎりが一番美味しい。

だって、仕込みにすごい時間がかかっていますから。今はおにぎりブームだと思うんですけど、仮にぼんごがレシピ本を出したら、みんな嫌がると思う。例えば、1個の具材が出てくるまでに3日とか、それだけの手間が掛かっているんですよ」

「おにぎり まんま」はオープン当初から人気店として名を馳せている。本明は新しいビジネスにチャレンジする際、どのようにアイデアを出していくのか? それは現場を見ることが重要だと話す。

「僕は今までスニーカーを仕入れて売っていたけれど、おにぎりは仕込んで作るじゃないですか。それが最初の1年間はわからなかった。だから、現場に行って、目で見て、理解していったんです。

今、2期目、1年と5か月経ったんですが、ようやくわかるようになってきました。靴屋とおにぎり屋って、商売としての生き方は同じなんじゃないのかな。まずは、みんなが食べたいと思うのを出す。だからクオリティーは落としちゃだめ。 そこから話題になるようなこと、例えばコラボをやるとかね。そして、そのあとは信者を増やすことをやる。だから、本当にスニーカーと売り方は変わらないんです。

でも、何をやるにしても、愚直にやらないと、真面目にやらないとダメですよ。これは潜水艦に似ていると思うんだけど、潜水艦ってずっと潜って我慢して仕事をしているでしょ? それで、水面から上がったときに花火がドーンって上がっているか、まだ暗いままなのか。

すぐに息が上がっちゃう人は、すぐ上がってきてしまってうまくいかない。そして、上がってきたときにまだ暗いと挫折してしまう人もいるでしょう。トライアンドエラーを繰り返しながら、積み重ねていくことがビジネスや人生で大切なことだと思います」

▲ぼんごのおにぎりが一番美味しいと絶賛する

スニーカーとおにぎりの売り方は似ている。ビジネスの世界で成功を収めた本明でも、その結論に達するまで1年以上の月日がかった。最後に今後の展望についても聞いた。

「おにぎりが儲かるっていうのがわかったので、フランチャイズなどお店の規模を大きくしていこうと考えています。年に20店舗ぐらい増やせたらいいですね。例えば、うちのお店に2か月なのか3か月なのか修業に来ていただいて、その後、フランチャイズ店としてオープンする。やっぱり人間だと思います。人間性が重要。

仕事って、もちろん食うためにやっている側面もあると思うけど、逆に仕事を通して自分を成長させるために働いてる人もいるわけで。頑張っている人を採用していかないと、うまくいかないと思うし、そういった人をフォーカスしてあげてほしい」

スニーカーからおにぎりへと舞台を移した本明秀文。これからも持ち前のビジネスに対する審美眼で、面白い新たなことを次々と発信していくことだろう。

(取材:笹谷 淳介)


プロフィール
 
本明 秀文(ほんみょう・ひでふみ)
「atmos」創設者。元「Foot Locker atmos Japan」最高経営責任者。1968年生まれ。90年代初頭より、米国フィラデルフィアの大学に通いながらスニーカー収集に情熱を注ぐ。商社勤務を経て、1996年に原宿で「CHAPTER」、2000年に「atmos」をオープン。独自のディレクションが国内外で名を轟かせ、ニューヨーク店をはじめ海外13店舗を含む45店舗に拡大。2021年、米国「Foot Locker」が約400億円で買収を発表。スニーカービジネスの表と裏を知り尽くす業界のキーパーソン。