室外機って“カワイイ”ですよね

指宿さんといえば、室外機に手足が生えた「室外機くん」のイラストも印象的だ。室外機くんが誕生した経緯を聞いてみた。

「ふと、室外機が“カワイイ”って気づいたんですよ。すみません、説明が必要ですね(笑)。室外機を見るのがそもそも好きだったんですけど、あるとき、吹出口のファンが目に見えてきたんです。“一つ目の目玉みたいだな”って。そこから妄想が広がって、“何かを見てるみたいだな、動きそうだな”って考えました。

路地裏って人がいないじゃないですか。だから、誰も見ていないところで動き出しそうだと思ったんです。トイストーリーみたいな感じで。室外機が壁にフジツボみたいにびっしり貼りついてる場所を見てたら、“こんなにいたら、一人くらい動き出してもおかしくないんじゃないか”って。そういうことを妄想するようになったら、それがどんどん楽しくなってきちゃって。

室外機に手足が生えて、隣の室外機と喋ってそうとか、アイス食べたりしてんじゃないかとか、そんなアイデアを思い浮かべていって、室外機が動いてるような絵を描き始めました」

▲路地裏を覗いてこんな感じだったら楽しそう 指宿さんX(旧Twitter)より

指宿さんの室外機に対する愛は止まらない。

「路地裏にあるものは、“表には出ないでね”って言われてる気がするんですよ。室外機って、きれいな建物の外観には絶対に出てないじゃないですか。普段、あんなに頑張ってるのに。そんな姿にグッときて愛が深くなってきました。路地裏のアイドルですね。私の推しです」

▲これだけあれば確かに一つは動き出しそう… 指宿さんX(旧Twitter)より

写経みたいな気持ちで描いてます

指宿さん描いている絵はアナログだ。ボールペン、製図ペン、ミリペンなどを使用して、すべての絵を描いている。

「ボールペンはシグノが一番描きやすいですね。ミリペンはすごくこだわりがあるという感じではなくて、使いやすいのを探してる感じです。紙は水彩紙を使ってます。私が描く絵は、ザラザラした質感のものが多いので、厚手の水彩紙だと、その質感が描きやすいんです。あと、モノクロの絵にしようと思ってたけど、やっぱ途中で色付けしようということがあるので。いつ色を塗りたくなってもいいように、基本的には水彩紙で描くようにしてます」

▲針のような細さのペーンで描き込んでいく 指宿さんX(旧Twitter)より

作業していて一番好きな工程は、細かくカケアミ〔※漫画で用いられる技法の一種〕を描いているときだという。

「カケアミを延々と描き込んでいくときが、本当に楽しいですね。基本的にあまり集中して描いてないんです。あんなに細かいものをずっと集中して描いてたら、頭が壊れてしまうので(笑)。

いつも動画を流しながら描いてます。YouTubeを流しながらじゃないと作業ができないんです。描き進めて、たまに作品を遠くに置いて、仕上がり具合を見て、また描く、ってことを繰り返してます」

異常なまでの細かい描き込みが特徴の指宿さんだが、無理している意識はまるでなく、そこに大変さは全く感じていないということに驚いた。

「写経みたいな気持ちで描いてます。絵を見た人からも“頭おかしくならないの?”って言われるんですけど、むしろ心が洗われます(笑)。絵を描くのが生活の一部みたいな感じなんです。普通に生活してるとき、絵を描いてるとき、テンションの差がないんですよ。朝起きて、ご飯を食べて、そのまま絵を描いて、動画を見て、お昼を食べて、絵を描いて……ずっとテンションが同じなんです。

絵を描くことに気合いを入れるってことがないですね。時間もあまり関係なく、暇な時間はずっと絵を描いてます。電子レンジでチンするのを待つ3分間であっても、ちょっとでもいいから絵を進めたいので描いてます。場所もどこでも大丈夫です。人と話しながらでも描けます。

“こんなに描くの大変でしょ”とか展示会で言われるんですけど、本当に申し訳ないくらい全然大変じゃなくて(笑)。こんなに自分が好きなものを描いて、こんなに人が見に来てくださることが、本当にありがたいと思いますね」

▲細部まで描き込まれた町並み、見ていたら吸い込まれそうになる 指宿さんX(旧Twitter)より