喪失感から精神安定剤を…それでも福田健悟は5代目リーダーになった

自分の弱さをひた隠しチームのために虚勢を張り続ける
周りのみんなには、安定剤を飲んでいることは隠していた。ギャングイーグルのリーダーが、精神的に弱い部分があるなんて言えるはずがない。薬さえ飲んでいれば、正常な状態に見せることはできる。
メンバーたちには、方針や今後の不安を包み隠さずに話した。すると周りは、僕の理想とするチームの在り方を実現させるために、協力的な姿勢を取ってくれた。そんななか……。
「福田さん。ホワイトソウルっていうチームのやつらが、自分たちのチームのバックにギャングイーグルがついてるって言ってるらしいですよ」
「あ? なんだ、それ。ちょっと今からソイツに電話しろよ」
この話を持ってきたのは三浦。三浦の後輩が、相手チームのリーダーと知り合いで、本人に聞いた話を三浦に伝えたようだ。三浦は自分の後輩に電話をして、相手リーダーの連絡先を聞いた。話ではホワイトソウルは僕達の1個下、2個下の集まりだと言う。人数は変わらないようだが、戦力がまるで違う。
かつての自分を思い出した。昔の僕もギャングイーグルに入ってないのに、入っているという嘘をついていた。相手も後ろ盾に僕たちがいるという嘘をついている。そんな嘘をつきたくなるくらい魅力的なチームなのだ。自分たちの代になっても威厳を保てているのがうれしかった。
あの頃の僕は、まさか自分がチームのリーダーになる日が来るとは夢にも思っていなかった。こうして物思いにふけているうちに、三浦は連絡先を入手していた。相手の番号を聞いて、僕は電話をかけた。
「あー、もしもし? キミらのチームの後ろにはギャングイーグルがついてんの?」
「え? 誰?」
「ギャングイーグルのリーダーですけど」
かつて電話でこう言われて、僕は身の毛がよだつ思いをした。彼もおそらく同じだ。人を脅すにはどうすればいいか。どうやって相手を自分に従わせればいいかは心得ている。それもこれも、逆の立場を経験したことがあるからだ。
「で? どうなの?」
「そんなこと言ってないです」
「ふぅん。じゃあ俺の後輩か、キミの知り合いがウソついてんの?」
「いや知らないです」
「なんだ、その態度。ナメてんのか? テメー」
「……」
「まぁ、いいや。とりあえず事実かどうか確認しねーとな。お前の知り合いと2人で岐南(ぎなん)のパラディアに来いよ! 明日の朝10時な」
電話を切って、場所を移動することにした。ひょっとしたらチーム同士の抗争になるかもしれない。5代目ギャングイーグルは総勢30人。人数は減っていたが勢いは落ちていなかった。
移動している最中に酔っぱらいが絡んできた。呂律が回っておらず、イマイチ何を言っているかよくわからない。よく聞くと、僕たちのことをサッカーチームだと言っているようだ。
5~6人で歩いていた酔っぱらい集団は近くのカラオケ店に入った。その集団を追いかける赤色の大集団。酔っぱらいはレジの前にいた。中に入って、後ろから襟首を掴んで入口まで引きずった。すぐさま後方から警察が来たという知らせが入った。
「解散!」
この合図は、全員で捕まるのを避けるために散らばる号令だ。誰も捕まっていないことを確認して、1時間後に所定の場所に集まるようにメールをした。全員が集まったあとで、明日のために必要事項を伝えた。常に連絡をとれるようにしておくこと。いつでも動けるようにしておくこと。それらを改めて念押しして、次は本当に解散をした。
「本当に大丈夫か?」先輩の嫌な予感がまさかの敵中
明くる日。わざわざ目覚まし時計をかけて起きるのも馬鹿らしい。目を覚ますと約束の時間は過ぎていた。そう思った直後に三浦から電話がかかってきた。たぶん相手から連絡が入ったのだ。三浦には慌てなくていいと伝えて、家に来るように言った。
身支度を済ませて三浦と合流後、パラディアへ向かった。到着すると、2人の男が立って待っていた。
「どっちがどっち?」
「僕が三浦さんの後輩で、彼が……」
「お前か。で? 俺らがバックについてるって?」
「いえ……」
「ん? じゃあキミがウソ言ってんの?」
「いえ、僕はそうやって言ってるのを聞きました」
「なんだ? お前ら。2人ともやっちまうぞ、コノヤロー」
「……」
「でも1人は三浦の後輩か。まぁいいや。じゃあ、時間やるよ。今から2人で話してどっちが正しいか決めてこい。5分で決まんなかったら、2人に責任を取ってもらうからな。いいか? 三浦」
「はい」
2人が話しやすいように、僕たちは別の場所に移動した。どちらにせよ、1人は間違っている。遠目で見ていて真剣に話しているのは伝わった。5分後。話し合いを終えた2人が出した答えは、相手リーダーの父親とギャングイーグルのバックが知り合いという結論だった。
うまい嘘を考えたもんだ。そう言えば怖気づくとでも思ったのだろう。相手が嘘を言っていると決定づけたのは、当てずっぽうではない。もし真実ならば今まで黙っていた理由が見当たらない。とはいえ、万が一にでも本当に知り合いだったら、マズい立場になるのはコッチだ。真偽を確かめるための時間は1時間や2時間では済まない。そのあいだに逃げようという魂胆か。ナメられたもんだ。
「じゃあ、あとで確認して、終わり次第また呼び出すからな? 来なかったら全員探すぞ。覚えとけよ」
何があっても逃さない。ほんのわずかな可能性を潰すために、家に帰って各方面に電話をした。事実確認が終わったのは4時間後だ。ギャングイーグルのバックについている人たちの情報と、相手リーダーの父親の情報を照らし合わせる作業は、一筋縄ではいかなかった。急に連絡をしてもつながらない人だらけ。むしろ、日をまたがなかっただけでもラッキーだった。
結果は黒だった。僕たちのチームのバックに、相手リーダーの父親の名前を知っている人はいない。これで迷いなく裁きを下すことができる。呼び出して追求するために、電話をかけたが出なかった。馬鹿なやつだ。三浦の後輩は相手の情報を全て握っている。
「もしもし? 三浦? お前の後輩は相手リーダーの家を知ってんだろ? 電話に出ないなら家に行くって伝えるように、言っといてくれ」
この電話のあと、すぐに折り返しの連絡が入った。
「すいません。ちょっと外してて、電話に出られませんでした」
「嘘が多いなぁ。お前の親父のことは誰も知らなかったぞ? どうなってんだ?」
「そうですか」
「まぁいいや。もう1回だけ話を聞いてやる。最後に洗いざらい正直に話せ。20時に岐南駅な。遅れるなよ?」
電話を切って、腹ごしらえをするために焼肉屋へ向かった。待ち合わせの時間までは1時間ある。三浦と僕と高崎の3人で会食をした。そこに誰から聞いたかわからないが、先代の先輩たちが2人でやって来た。
「お前ら本当に3人で大丈夫か?」
恐れるに足らない。相手は1個下、2個下の集団だ。僕たちの相手ではない。それに、今回は話を聞くために呼び出したのだ。喧嘩ではない。念のため近くでスタンバイをしておくと言ってくれたが、心配はしていなかった。
時刻は19時50分。店を出てから岐南駅までは10分もかからない。5分前に出発して、時間通りに集合場所に着く直前。予想だにしない光景が目に飛び込んできた。そこにいたのは、鉄パイプや金属バットを持った約20人のカラーギャングだったのだ。






