元格闘家・武田幸三「５歳のときに実家が火事に…」

強い格闘家はみんな繊細で心が弱い

「コツコツやっていくだけですから」と微笑む彼を見て、そういえば聞きたかったことがあったと思い出した。前述した本を読んだときにも、さまざまなインタビューや、最近ではYouTubeに出ている武田を見たときに感じたことなのだが、あんなに試合では闘志むき出しのファイトをする彼が、普段は言葉がとても柔和で、俯瞰で現実的に自分や物事を捉えているように思えるのだ。もっと格闘家はビッグマウスで、傍若無人なイメージがあるのだが、もしかすると武田幸三という人間は、もともと格闘技をするような精神性の人ではないのでは？　と感じていたのだ。

もしかすると、失礼にあたるかも……。恐る恐る、言葉を選んでそう尋ねると、武田は「ああ、そうかもしれないですね」と、こちらの意見を一度しっかりと受け止めつつ、言葉を続けた。

「でも、格闘家にはどちらのタイプもいるかもしれないな、とも思います。おっしゃる通り、ビッグマウスでイケイケドンドンの人もいますけど、僕みたいに、すごく臆病で、だからこそめちゃくちゃ見るし、準備するタイプの格闘家もいると思います。それを表に出すか出さないかの話で、ビッグマウスだけど臆病な人もいれば、無口だけどめちゃくちゃ剥いてるやつもいる。個人的な印象ですけど、じつは成功する人はみんな繊細で心が弱くて、だからこそ強くなりたいって、ひとりで努力する人なんじゃないかなって思ってます」

そう答える武田を見て、2008年の年末に彼が対戦した格闘家、川尻達也のインタビューを思い出した。彼は自身のことを臆病だと評し、いまだに人を殴ることに抵抗があると言っていたと記憶する。そして、だからこそ真摯に格闘技に向き合えるのだと。

「そっか、川尻くんもそう言ってたんですね。一度ちゃんと話してみたいんですよ、川尻くん。僕は基本的に、格闘家は表裏一体だと思ってるんです。追い込む自分と追い込まれる自分。先ほど、僕が俯瞰で捉えていると仰ってくださいましたが、そもそもその視点がないとダメなんじゃないかなと思ってます。自分を客観視しながら“これでいいのか？　これでいいのか？　そんなんじゃだめだろ？”って、発破をかける。追い込む自分がうれしいし、追い込まれる自分がうれしい」

個人的に、格闘技はスポーツの中でもいちばん残酷なジャンルではないかと感じる。リングには基本的に勝者と敗者しかいない。見ている側が負けた選手を評して“いい試合だった”とする感想はあるが、負けて悔しくない人はいないだろう、とリングに立ったことがない素人は想像する。武田が言うように、練習で試合の何ヶ月も前から自分を追い込み、想像を絶する過酷な減量をした先が、敗者という結果であったら、そんな残酷なことはないだろう、と思うのだが。

「これは引退したから言えるのかもしれませんが、格闘技ってそこまでオール・オア・ナッシングじゃないんです。練習、減量、その過程をしっかり追求すれば、技術的な面はもちろん、人間的な成長もあると思っています。もちろん、試合前は絶対勝ってやるって気持ちを持ってますよ。川尻くんなんか、目の前で“秒殺してやる”って言ったし、まあ結果負けちゃったんですけど(笑)」

▲数々の土壇場を語ってくれた

≫≫≫ 明日公開の後編へ続く

〇俺のクランチ　第18回(後編)－武田幸三－

「お前が決めたのか？」片目のチャンピオンと長渕剛の絆 | 俺のクランチ | WANI BOOKS NewsCrunch（ニュースクランチ）

実家が火事になるなどの困難を乗り越え、格闘家になった武田幸三。現役時代の長い期間を片目だけで試合をしていた、という彼の土壇場だらけの人生を聞いた。

プロフィール

 

武田 幸三(たけだ・こうぞう)

生年月日：1972年12月27日
身長/体重：173cm /70kg
血液型：A型
趣味：ムエタイ・キックボクシング
特技：乗馬・殺陣・英語