親友の突然の死、彼女の浮気発覚…崩れ出した福田健悟の人生

知らない男と映っているプリクラが・・・
時計の針は深夜の2時30分を回っていた。タケルの訃報が届いてから、24時間が経とうとしている。疲れ切った僕は、即座にベッドに横になって眠りについた。
朝起きて、昨日のことは忘れているかのように振る舞った。なんとか平常心を保っていたかった。もともとの予定で、車のタイヤ交換をすることになっていたマヤは外に出た。
ひとりになって何もすることがない僕は、床に置いてあるプリ帳を手に取った。中を見ると、そこには知らない男と映っているプリクラが貼ってあった。
『2003年10月、3ヶ月記念』
自分の中で、何かが切れた音がした。僕たちが付き合ったのは2003年の8月。プリクラの男と付き合ったのは、僕と関係を持つ1ヶ月前。浮気相手は僕だった。プリクラの下に書いてある名前は、メールの男と同じ名前。
そこに何も知らないマヤが帰ってきた。何も言わずに帰ろうとする僕を引き止めて聞いた。
「ちょっと待って。どうしたの? 急に」
黙って手帳を指差した。彼女はもう僕を引き止めなかった。外に出ると、出た直後には降っていなかった雨がポツポツと頭上に落ちてきた。空は暗い。傘もないし、財布もない。歩いて帰るには遠すぎる。
気づいたらポケットの中に入っていた携帯電話を取り出して、小野木さんに電話をしていた。
「先輩の言う通りでした」
「何が?」
「浮気されてました」
「……今どこ?」
「穂積です」
「行くわ」
帰る足がないことは言っていない。察してくれたのだ。地元から今いる場所までは、車で20分くらいかかる。
小野木さんが着いたのは20分後だった。近くまで来たところで、電話がかかってきて、コンビニで待ち合わせをした。駐車場に車が止まって、助手席を開けた。
「やられました」
どんな顔をしていいのかがわからない。もう無理をできる状態ではなかった。苦笑いをするだけで精一杯だ。何も言わずに座っている僕に、小野木さんも声をかけなかった。
運転が始まって数分後。ようやく声をかけられた。
「今度の集会どうする?」
「え?」
「俺たちは皆で飲みに行こうと思ってんだけど、来るか?」
「でも、リーダーに怒られるんで……」
「あぁ、アイツには俺から言っとくから大丈夫。お前って酒強いの?」
「いや……」
「そうか。まあ飲んでれば強くなるからな。俺も昔、めちゃくちゃ酔い潰れてな。先輩たちと飲んでたんだけど、俺を放って帰りやがってよ……」
このあとも、小野木さんは関係のない話を続けた。序盤は相槌を打っていたが、途中からは黙って聞いていることしかできなかった。声を出したら泣いているのがバレてしまう。もう大丈夫だと思って声を出したら裏返った。その声を聞いて小野木さんは言った。
「まあ、女は星の数ほどいるって言うからな」
こみ上げていた感情があふれ出した。あんなに怖かった小野木さんの優しさが温かかった。車は先輩たちが遊んでいた溜まり場へ向かった。遊んでいる最中に何も言わずに来てくれたのだ。楽しく盛り上がっているところに、泣き顔で入っていくわけにはいかない。手で顔をぬぐって、家に入った。
「おぉ! なんだ? 珍しいじゃねーか」
「すいません。お邪魔しちゃって」
「あ、そうだ! 聞いてくれよ! この前の喧嘩で情けない戦い方してたんだよ。コイツ」
「え? いつですか?」
「公園で喧嘩したときだよ! 飛び蹴りから始めただろ」
「違いますよ! あれは相手がボクサーだったから……」
「本気で言ってるわけじゃねーよ! 必死になんなよ」
この瞬間だけは現実を忘れることができた。この時間が永遠に続けばいいとさえ思った。だが、家に帰ると考えてしまう。タケルの死で憔悴していた僕を励ましてくれた、あの言葉。
「健悟。私にはわかるんだけどね、今タケル君は、健悟の後ろで佇んでるよ。温かい感じがする。私にはわかるんだ」
ふざけるな。どこまで馬鹿にしたら気が済むんだ。どうせ心の中で笑っていたんだ。こんなヤツを唯一の救いだと思った自分が馬鹿だった。救いなんてない。救いようのない人生だ。もうどうでもいい。
ここから僕の人生は、転がるように落ちていく。







