留置所生活に逆戻り? 拘留中に犯してしまったオークション詐欺

福田の人生を変えた保護観察官が薦めた1冊
明くる日。母に連れられて、保護観察官のところに向かった。小学校の隣にある文具屋の店主だ。この人に定期的に会いに行って、問題がないかどうかを見定めてもらわなければならない。ここで問題がある、という判断をされたら、再び拘留を余儀なくされる。
2時間くらい話していたが、内容は世間話のようなものだった。そして最後に、1冊の本を手渡された。スピリチュアルとかなんとか書いてある。ちょうどスピリチュアルはブームになっていた。テレビに霊能者が出ていて、予言や透視をしている。怪しい。嘘をついて金儲けをしているのか? 試しに本のページをめくってみた。
「亡くなった魂は、多くの天使達に祝福をされて、迎え入れられる」
「果たせなかったことを果たすために、何度も生まれ変わる」
タケルの死を目の当たりにして、深い悲しみの底にいた僕は少し救われた気がした。スピリチュアルという言葉に嫌悪感を抱いていただけで、書いてある内容は素晴らしかった。目に見えない世界の話を受け入れるようになったことで、『法務省 特別監査室 呼称返還係 野口徹郎』の存在も受け入れることができた。
彼の存在は紛れもなく非現実的だ。名前を取り戻すために協力をしてくれる存在など、現実的な存在ではない。
ライブハウスのトイレで話かけてきて、名前を取り戻したいなら、今までの自分と違う自分になればいいと言った。そう言われて過去を振り返っていたが、『45』と呼ばれることに対するフラストレーションはそんなになかった。どちらかと言えば、過去を振り返ったのは、歌を作るうえで役に立つと思ったからだ。
そして言われた通り、過去を振り返ったのは正解だった。おかげで、タケルのことを思い出すことができた。正確には、忘れたことは一度もない。タケルを失ったことで、何を思って、何を伝えなければいけないかを再認識できたのだ。伝えなければいけないことは、命の大切さ。すぐに歌詞を書いて、歌を作った。
この頃には、アーティストとしての振る舞いに慣れていた。新曲を引っさげて、ライブに向かう。会場に着いて、皆に挨拶をする。これは恒例のパターン。先輩たちのライブを見るのも勉強になる。なかでも、啓介くんのパフォーマンスは圧巻だった。
『人生は十人十色。新鮮なチューニングをしろ。金銭や名誉や栄光。そんなものよりもまずSAY HO』
タイトルは【十人十色】。内容は、人それぞれの価値観が大切というものだった。さすがのクオリティ。だが、前よりも魅力を感じる部分が少なくなっていた。最近の啓介くんは、説教をするようになっていたからだ。あそこがダメ。ここがダメ。なんであそこをこうしないんだ。ああしろ、こうしろ、と。
もし本当に、人はそれぞれ十人十色で、価値観の違う存在だと思っているなら、なんで自分の意見を押しつけるんだ? 歌で伝えている内容と生き方が違うのは、僕の知っているカリスマではなかった。
そんな僕も、偉そうに人のことが言える立場ではない。この頃の僕はタバコを吸っていた。命の尊さを歌っているのに、タバコを吸って命を粗末にしている。歌の内容と生き方が反比例しているのは、自分も同じだった。
少年時代のトラウマを思い出し父と大口論!
こんな自分を変えたかった。ちょうど禁煙もブームになっていた。僕の好きな芸人さんたちも、次々に禁煙していった。彼らが禁煙できたのは、1冊の本がキッカケになっていた。『禁煙セラピー』。読んだ人の9割がタバコをやめられるという本。ご多分に漏れず、僕も禁煙に成功した。
それからというもの、フツフツと自信が湧いてきた。啓介くんでさえ成し得なかったことをやってのけた。自信の回復と、スピリチュアル系の本に精神が癒やされたことで、安定剤も飲まなくなっていた。全て本のおかげだ。
それからというもの、ジャンルを問わず、いろんな本を読み漁るようになった。独身で子どももいないのに、教育の本を読むようになった。その本にはこう書いてあった。
「力で抑えつける教育は、役に立たない。そういった教育で相手が学ぶのは、力の強い者が意見を押し通すことができる、ということだけだ」
これを読んで思った。ひょっとしたら、僕が暴力的になったのは父のせい? 野口に言われて、過去を振り返ったことで思い出した。子どもの頃に、口の聞き方が悪いと言われてビンタをされたことがある。
あれは小学生のときだった。夕飯の前に、僕はリビングで漫画を読んでいて、父はテレビを見ていた。それから2人で洗面所に手を洗いに行って、食卓についた瞬間に、父が僕に手を洗ったかどうかを尋ねてきたのだ。時間軸がごっちゃになって、勘違いをしていると思った。
「さっき漫画を読んでたから?」
この言葉が癇に障ったのか、口の聞き方が悪いと言ってビンタをされた。未だに何がダメだったのかわからない。あの本に書いてあったことは正しい。力の強い者が、意見を押し通すことができる。
結局、あのときは泣き寝入りをするしかなかった。そして僕は、力さえあれば意見を通すことができると思った。だから、腕力にものを言わせて地元で一番のチームのリーダーにのしあがった。その結果、あえなく逮捕。全ては父のせいなのかもしれない。そんな思いを抱えたまま日々は流れていった。
そんなある日。夕飯を食べているときに、リビングで流れていたニュースを見て、父と言い合いになった。ある国が、敵対する国に対して、武力を行使しているニュースだった。
「あれじゃあ、なんの解決にもならないよね」
「何を言ってんだ。あんなやつらは力でねじ伏せればいいんだよ」
「それで何か解決すんの?」
「いや、アイツらは無茶苦茶やってるんだよ。女子供にも容赦がないんだから」
「だからって、力でねじ伏せても、強いやつが意見を通せるってなるだけじゃん」
「それでいいんだよ。アイツらに意見を言わせたらダメなんだから」
「じゃあ、俺が今から外に行って、コンビニでたむろしてる不良を全員ぶっ飛ばしたら、褒めてくれる?」
「何言ってんだ?」
「忘れたのか? 口の聞き方が悪いって言って、俺を殴ったろ? あれは自分の意見を通したかっただけだろ! 俺が弱かったからできただけだろ! 今の俺に同じことができんのかよ!」
「やめなさい、45」
母に止められて、言い合いは終わった。最後に、父は眼鏡を外して、自分を殴るように言った。殴らなかった。ここで殴ったら、自分が嫌だと言っていることをすることなる。
僕は暴力をふるわずに自分の意見を通した。これは間違ったことではない。なのに『45』と呼ばれた。なぜだ? 僕は正しいはずなのに。間違ったことはしていないはずなのに。
「45」は、次回2/25(金)に更新予定です。お楽しみに!!
出所後、自分の名前が「45」に! 絶望する福田健悟の前に現れた男の正体とは? | 「45」 | WANI BOOKS Newsクランチ!(ニュースクランチ!…
鑑別所にいた経験のある芸人・福田健悟が綴る、善と悪の定義が問われる自伝的ファンタジー小説。更生し、己の名前を取り戻すため、もがき苦しむ物語。エピローグ








