「目的のためなら頑張れる」10万円を貯め芸人として勝負に出るため東京へ

上京に向けてアルバイトと貯金に勤しむ毎日を送る
今回のことで、成長したのは彼女だけじゃない。人を元気にできることがわかって、芸人としての自信にもつながった。これを機に、今まで以上に、芸人としての活動も順調に進んでいった。とはいえ、収入を得ていたわけではない。バイト歴は5年。いつものように出勤をして、一通り業務を終えたら、退勤をする。この日も平常通り仕事を終えて、帰りの駐車場まで向かっていると、後ろから声をかけられた。
「頑張っていますね」
「あぁ、ビックリした。誰かと思ったら、野口さんじゃないですか」
「お久しぶりです。順調そうですね」
「そうでもないですよ。芸人として、なんの結果も出てないですから」
「そうですか? ラジオ聴きましたよ」
「でも、食べていけてるわけじゃないですからね」
「ん〜。じゃあ、東京で勝負してみたらどうですか? 東京だったら、同じラジオでも、全国の人に知ってもらえる可能性が上がるじゃないですか」
「確かにそうですね。ただ恥ずかしながら、5年間バイトを続けても、全く貯金がないんですよ」
「大丈夫ですよ。あなたは目的のためなら頑張れる人ですから。では、私は次がありますので」
次があるということは、僕以外にも担当している元犯罪者がいるのか。それとも、他に仕事があるのか。それで、給料は一体いくら発生しているんだ? いけない、いけない。今はそんなことを気にしている場合じゃない。これからのことを考えなくては。
まずは給料が入ったら、入った分だけ使い切る習慣を、変えないといけない。この頃も、相変わらずライブには出ていたが、今は貯金をすることに専念したい。お世話になっていた先輩たちや、主催者側に事情を説明して、全てのライブをキャンセルした。週4日だったバイトのシフトも、週5日に増やした。
果たして、うまくいくだろうか。そんな懸念は徒労に終わって、自然と余計な出費はなくなった。生活費を稼ぐためのバイトが、夢を叶えるためのバイトに変わったからだ。
『目的のためなら、頑張れる』
野口徹朗の言う通りだった。貯金額が多くなるにつれて、夢に一歩ずつ近づいている感覚で、働いていて楽しかった。10代の頃、バイト先をコロコロ変えていた自分とは思えない。こうして、3ヶ月で10万円の貯金をすることに成功した。
いくらあれば上京資金として充分なのか。試しにネットで探したら、初期費用が不要な物件も見つかった。業者に頼まなければ、引っ越し代もかからない。必要なのは、レンタカー代と高速料金だけ。もう少し貯金をしたほうが気持ち的には楽だったが、湧き上がる衝動は抑えられなかった。
「突然だけど、東京に行こうと思ってるんだ」
「え? 急にどうしたの?」
「今まで迷惑かけてきたけど、自立したいし、30歳手前で最後の挑戦をしたいからさ」
母は納得してくれた。父や祖母、姉たちも背中を押してくれた。好き勝手に生きてきた人生だ。見守り続けてくれた家族の承諾なしには走り出せない。これで気を揉むことなく、前に進むことができる。







