家族・友人と涙の別れ…ついに始まった東京生活で出遭ったアイツ

予期せぬ東京の洗礼が次々と福田健悟に襲い掛かる!
不動産屋で鍵を受け取って、アパートに向かった。ここが今日から僕の拠点になる。中に入って、休憩できると思ったのは間違いだった。荷物を部屋に入れないといけない。長時間の運転をしてヘトヘトだったが、さらに2時間かけて荷物を部屋の中に入れた。
運び終わって、汗だくの体を癒やすために、シャワーの蛇口をひねった。お湯が出ない。ガスが通っていなかったのだ。頭を抱えたが、地元の皆の顔が頭に浮かんだ。こんなことで、ヤル気をなくすわけにはいかない。大丈夫。これは東京の洗礼だ。風呂場から出て、裸でガス会社に電話をした。
心が折れそうになったのは、ガスが通ったあとで風呂場から出た瞬間、ゴキブリと対峙したことだ。スプレーを使って退治をしてから、母に電話をした。
「どう? ちゃんと引っ越しは終わった?」
「引っ越しは終わったけど、今ゴキブリが出たんだよ。もう岐阜に帰りたいよ」
「なに馬鹿なこと言ってんの」
一蹴された。そりゃそうだ。あんなに威勢よく家を出ていった息子が、ゴキブリの出現でホイホイと家に帰るなんて言い出したら、呆れるのも無理はない。このあと、レンタカーを返しに行って、トランクに入れておいた自転車でアパートに帰った。ようやく休むことができる。部屋はグチャグチャだったが、空いているスペースを利用して、眠りについた。
目を覚ますと、体中を駆け巡る吐き気と倦怠感に襲われた。母からのメールで、家族全員が同じ症状に襲われていることがわかった。どうやら、前日に皆で行ったバイキング形式のレストランで、胃腸風邪をうつされてしまったようだ。実家だったら、誰かが看病してくれるが、今は独りきり。
これから先は、体調を崩せばツラいのは自分で、バイトを休んだら生活費がなくなってしまう。散らかった部屋を少しは整理しないと、休まる体も休まらない。ご飯も誰かが作ってくれるわけではない。気持ち悪くて食べられる状態ではないが、栄養補給は必要不可欠だ。ズタボロの体を引きずって、ウィダーインゼリーを買いに行った。
いつまで症状が続くのか不安だったが、次の日には完全に治っていた。治さなければいけないという気持ちが、以前より強かったからだ。病は気からという教えが、正しいということを実感した。そして、バイトをする予定になっていたコンビニの店長に、メールを送った。
『上京してきました』
『引っ越しが終わってバタバタしてるだろうから、落ち着いた頃にシフトに入ってくれる?』
なんて優しい人なんだろう。お言葉に甘えて、2~3日は街を探索することにした。郵便局や銀行の場所を把握して、落ち着いた頃にメールを送った。
『ようやく落ち着きました』
『じゃあ、明日からお願いね』
夜勤は21時から。前日は14時に眠りについた。生活リズムを逆転させるために、20時に起きて、準備が終わったあとで店に向かった。そこには、2人の先輩従業員がいた。1人は、斉藤さんという40歳くらいの少し訛りがある男性。もう1人は、兼元くんという現役大学生で、バイト歴が1番長い男の子。このコンビニは駅の近くで、電車から降りて来る人たちがぞくぞくと来店する。
「オイ! これどうなってんだよ!」
「はいはい、どうしました?」
「ぶっ通し4時間って書いてあるのに、3時間半しかねーじゃねーか」
「はい、すいません! 他のお客さんもいるんでね。またお願いしまーす」
斎藤さんは軽くあしらっていた。話を聞いたら、成人雑誌に付いていたDVDの文言と、内容が違うというクレームだった。とても普通のクレームとは思えないが、手慣れた様子で対処していた。斎藤さんによると、日夜こんなことが繰り広げられるコンビニだと教えてくれた。芸人としては、幸先が良い。
だが幸先が良いなんてもんじゃなかった。これほどまでに、変わったことが起き続けるバイト先が見つかるなんて、想像すらしていなかった。
「45」は、次回4/29(金)に更新予定です。お楽しみに!!
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お笑い芸人・福田健悟が綴る、自伝的ファンタジー小説。彼女との連絡で、自分は人を元気にできると自信がついた福田。後押しもあり、東京生活に挑戦することを決心した。








