彼女との連絡を続けて、自分は人を元気にすることができると自信がついた福田。芸人としての活動も順調に進むなか、東京での生活に挑戦することを決心した。しかし、希望に合った条件のアルバイトを見つけられず、さっそく新生活の壁が立ちはだかる。福田の東京生活は始まる前に頓挫してしまうのだろうか?

健悟くんのおかげでリストカットやめたよ

2通目のメールが送られてきた。手首から血が流れている写真だ。救ってあげたいとは思うが、会ったときに危害を加えられないという保証はない。メールや電話だけでやり取りをすることにした。

『お〜写真ありがとう! すごい写真だな! いや、ダメダメ! 何してんの? こんなことしたらダメだろ』

この方法が正しいという確証はなかったが、自分ができる方法は、他に思いつかなかった。精神的に不安定だった頃の僕は、過剰に心配をされたら余計に落ち込んだ。そんなに心配をされるくらい、周りからは危機的状態に見えているのか? そう考えると、恐怖感が増したのだ。

芸人として、彼女を笑顔にする。過剰に心配をしない。かといって、雑な扱いはしない。この3つを意識して、毎日の電話を欠かさないようにする。彼女が出ないときは、折り返しの着信があるまで放っておいた。

「心配じゃなかったの?」

「心配だったよ」

「じゃあ、なんで連絡くれなかったの?」

「最後に俺が連絡したときに、つながらなかったじゃん」

「それでも、心配だったら連絡するでしょ! そんなこと言ってたら、死んじゃうよ!」

「そっか。お疲れ! いやダメ、ダメ。何回も言わせんなよ! 心配かけて楽しいのか?」

「……そういうわけじゃないけどさ。誰も私のことなんか気にしてないって思っちゃって」

「気にしてなかったら毎日、毎日、電話するかよ」

「そうだよね」

彼女から電話がかかってくるまで、放っておいたのには理由がある。心配をかければうまくいく、という印象を与えたくなかったからだ。そう思わせてしまったら、リストカットは止まらない。

「ねぇ、なんで会えないの?」

「気を持たせたくないからだよ」

「いいじゃん。SEXしたいでしょ?」

「そうねぇ。1回だけ。って嫌だろ? そんな理由で近づかれたら! 今まで体目的で言い寄られて、嫌な思いしたんだろ?」

少しずつ彼女の闇に触れていった。いきなり闇に触れられると、拒絶反応が起きる。自分も同じだった。家族や友達は優しい言葉をかけてくれる。本に書いてある言葉には、核心に触れられる。優しく受け入れてもらえるだけだと、癒しはあるが、気づきはない。気づきがないと、一瞬だけ癒されても、元に戻ってしまう。

癒しがない場合も同じだ。傷ついた状態で核心をつかれても、傷口がひらくだけ。彼女は本を読まない。つまり受け入れることも、核心をつくことも、同時に僕がしなければならないのだ。それを芸人として自分なりにアレンジして、ノリツッコミ風に、受け入れたあとで核心をつく、という方法を選んだ。すると彼女は、次第に心の扉を開いていった。

「お母さんに言われたことがあるの。あんたなんか産まなきゃ良かったって」

「ヒドイこと言うなぁ」

「お父さんからは、暴力ふるわれてたし」

「マジで? 最低な親父じゃん」

「でも実際に私なんて、なんの価値もないからさ」

「確かにね! 自分で価値がないなんて言うやつ、価値ないよね! いや、親と同じことするなよ! 自分が言われて嫌だったことを、自分に言うのはやめろよ」

電話ごしに、鼻をすする音が聞こえてきた。これくらいからだ。彼女から電話がかかってくる回数が減ったのは。前までは、僕に心配をかけるために、電話に出ていない様子だった。ところが最近は元気になって、僕の支えが必要なくなって、電話に出ていないのが見てとれた。最初に電話をするようになってから、約3ヶ月経過。ついに、彼女から電話がかかってくることはなくなった。

「ありがとう。健悟くんのおかげでリストカットやめたよ」

最後の電話で、彼女はこう言った。たとえ嘘だとしても、人を不安にさせるのではなく、安心させるようになったのは事実だ。僕が家族を心配させないように、笑顔で生きるようになったのと同じだ。