「吉本に入ればいいじゃないですか」フリー芸人・福田の挑戦がスタート

捜索願いが出ている斉藤さんとお笑いの舞台へ
変わった人がたくさん来るコンビニだが、変わっていたのは、お客さんだけではなかった。
「そういえば斉藤さん。例の話を教えてあげてくださいよ」
「え? あ、まぁ。いや実は、地元で僕の捜索願いが出てるんですよ。もともと住まいは山形県でね。会社員やってたんだけども、ブラック企業で。嫁さんも怒ってばっかの人だったから、会社に行くって言って、東京に来ちゃったんです」
これが東京なのだ。岐阜にいたときには無かった出会い。刺激的な毎日が送れそうだ。やっぱり、上京して良かった。2人と働くのは、楽しかった。僕が仕事に慣れるにつれて、シフトは3人ではなく2人体制になった。基本的には、僕と斉藤さんのコンビだ。
「それにしても、捜索願いの話は驚きましたよ。あれ大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ。携帯の電源切ってあるから」
「いや違う違う。そういう問題じゃなくて。奥さん心配してるでしょ」
「そんなことないよ。それより福田くん。お笑いのほうはどうなの?」
「まだ事務所は決まってないんで、フリーでやってるんですけど、よかったら斉藤さんも1回出てみます?」
「え? でも僕、ネタ作れないから」
「いいじゃないですか。ぶっつけ本番で」
最初こそ二の足を踏んでいたものの、徐々に乗り気になっていった。お客さんが無料で観戦するライブということを伝えたら、思い出作りに出てみると言ってくれた。ネタを作らずに舞台に立つのは無謀だが、台本があろうがなかろうが、一朝一夕で成功するほど甘くはない。いっそのことノープランのほうが、瞬間的な笑いは得られるのではないかと考えた。
ライブ当日。斉藤さんは、酒を飲んできた。百歩譲って飲酒はいいとしても、無茶苦茶はことだけはしてほしくない。お客さんとして、兼元くんも来ていた。
「ちょっと兼元くん、聞いてよ。この人さ、酒飲んで来てんのよ」
「マジですか?」
「ちょっと、緊張しちゃって」
「いや、わかるけどさ。まぁいいや。とにかく、最後まで頑張ってくださいよ」
本番が始まると、斉藤さんは舞台に出てこなかった。これは、本番前に斉藤さんをリラックスさせるために、僕が言ったことを鵜呑みにしたからだ。
「土壇場で舞台に立ちたくなかったら逃げてもいいですよ。その代わり、僕は絶対に逃がさないですから。それ以外も、思いついたことは全部やってください。それが間違っていたら、ツッコミとして止めますから。それで笑いが起きなかったら、僕のせいだと思って下さい」
手を引っ張って舞台にあげると、予想通り笑いは起きた。何も喋らない斉藤さんに、喋るように促した。それでも喋らない斉藤さん。それならということで、僕は斉藤さんの捜索願いが出ている話を暴露した。客席は大爆笑。あたふたしている斉藤さんを見て、再び笑いは起きた。舞台を降りると、斉藤さんはうれしそうだった。
「僕って意外と才能あるのかなぁ」
そこに見に来てくれていた兼元くんが駆けつけた。
「あれは福田さんが上手だったんですよ」
「そうかなぁ? 僕の実力だと思うけどなぁ」
「でも、プロになろうと思ったら酒飲んで来ちゃダメですよ」
僕の代わりに兼元くんが注意をしてくれた。斉藤さんは、ギャングイーグル3代目の伊藤くんと組んでいたときの、自分みたいだった。あのときの僕は調子に乗っていた。自分に才能があると思いこんで、相方を責めていた。だから『45』と呼ばれたのだ。こんな簡単なことに気づくのに、数年もの時を使ってしまった。教えてくれた斎藤さんには感謝をしなければいけない。







