「吉本に入ればいいじゃないですか」フリー芸人・福田の挑戦がスタート

“もって”いる男・鬼塚くんのおかげで吉本への関心がアップ
このあとも、斉藤さんとは良い関係を築いていたが、数カ月後に彼はバイトを辞めた。というより、山形に帰った。久しぶりに携帯の電源を入れたら、奥さんから電話がかかってきたらしい。それで説得されて帰ることにしたようだ。引き止める理由はなかった。
よっぽど奥さんは心配をしていたのだと思う。電源をつけた瞬間に電話があったということは、何回も何回も連絡をしていたということだ。彼がいなくなって、シフトに穴が空いた。誰が代わりを務めるのか。いつものようにバイト先に行くと、店長が言った。
「もう1人お笑い芸人の子が入ることになったぞ」
名前は太田くん。彼は僕より5歳年下で、明治大学出身。中卒で不良だった僕とは、芸人という共通点を除いて真逆のタイプだ。コンビニバイトの経験者で、逆に僕が教えてもらう局面もあったくらいだ。
「どっか事務所入ってるの?」
「あぁ、僕は吉本っす」
お笑いの事務所としては、言わずと知れた大手事務所。僕は事務所に所属してない、フリー芸人だ。日々、オーディションを受けていたが、鳴かず飛ばずだった。
「福田さんも、吉本に入ればいいじゃないですか」
「でも入学金が40万かかるんでしょ? そんな金ないからなぁ」
「ローン組めますよ」
この一言はデカかった。前から吉本に入りたいとは思っていたが、入学金だけが引っかかっていた。太田くんが持ってきてくれたパンフレットに、ローンでの支払いは可と書いてあったため、急いで願書を取り寄せた。面接は、半年後の8月だ。
2ヶ月後。兼元くんは大学の卒業と共に、バイトを辞めて実家に帰ることになった。このタイミングで、太田くんの知り合いが、バイトを探しているという話になった。店長は喜んで採用した。名前は鬼窪くん。鬼窪くんは太田くんの同期で、吉本に所属をしていた。僕たちは、急速に仲良くなった。彼は稀に存在する'もっている人。ある日、2人で満月が綺麗に輝く夜道を歩いていた。
「福ちゃん見て! めっちゃ月が綺麗だよ!」
そう言って、ポケットからスマホを取り出して、写真を撮っていた。うれしそうに写真を見せてくれたのだが、映っていたのは月ではなく街灯だった。彼の家の冷蔵庫から自分で出したコーラの蓋を開けたら、炭酸が噴き出してきたこともある。鏡に映った自分を見て、腰を抜かしそうになったこともある。
「今度オークションがあるんだよね。うまくいくかなぁ」
オーディションだった。
ちょうどこの頃、『R-1グランプリ』という一人芸を競う大会のエントリーが始まっていた。強化合宿と称して、僕たちはバイト終わりや休みの日に、部屋で特訓をした。エントリーが先に通ったのは、僕のほうだった。100パーセントの力で臨んだものの、結果は敗退。無念だった。あとは鬼窪くんに託すしかない。
結果は、2人して不合格。鬼窪くんの前に出た出演者は、客席を大爆笑の渦に巻き込んだらしい。出番を終えて舞台袖にはけてきた出演者を見ると、なんとホリエモンだったと言う。
一旦ここで休憩時間。再び大会がスタートしたときには、客席に誰もいなかったとのこと。ホリエモンを見て満足をした人たちが帰ってしまったのだ。結果は残念だったが、彼が“もっている”のは事実だ。養成所の同期にも、鬼窪くんみたいな芸人はいるだろうか。彼みたいな人とコンビを組むことができたら、成功するかもしれない。
そんな矢先に、吉本興業から面接の日取りを書いた紙が送られてきた。吉本の面接はどんな面接なんだろう。普通の会社やアルバイトの面接とは違って、面白いことをしたほうがいいのか? 前に吉本は軍隊のように厳しいと聞いたことがある。果たして、何事もなく終わるだろうか。それから数カ月後。面接の日がやってきた。
「45」は、次回5/6(金)に更新予定です。お楽しみに!!
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