山内くんの天才的なディベートはひろゆきのパクリ!

今までどおりのリアクションなんて取れるわけがない
しまっていた出来事は、他にもある。店長が家族ぐるみで、山内くんと一緒に温泉旅行に行ったときのこと。山内くんは、暴走族時代に背中をチェンソーで切られたと言っていた。温泉に行けば、必ず裸は目に入るが、背中に傷跡は見当たらなかったらしい。疑惑が持ち上がって、初めて知る真実。店長は、古傷をつつくことになってはいけないと思って、黙っていたのだ。
由美子が言い出してすぐは、疑念の気持ちは20%くらいしかなかったが、今や90%に膨らんでいる。長野の別荘や、中野のツインタワーの写真を見たときも、本人は不在。家に遊びに行く約束をすると、必ず直前に予定が入る。さらに輪をかけて、潔癖症で繊細な性格だと言われてしまうと、深くは踏み込めない。
スノボーのオリンピック予選を受けたときは、裏で由美子が情報を検索していた。どれだけ探しても、山内くんの名前はネットに載っていなかったとのこと。僕たちの店には、山内くんや由美子だけではなく、いろんな人たちが遊びに来ていた。
その中には、オリンピック選手のプロスノーボーダーをスポンサードしている社長もいた。これは嘘ではない。証拠の写真は、何度も目にしている。社長は、朝と昼と夕方に買い物に来ることはあっても、夜は来店しない。そのことも伝えたうえで、機会があれば山内くんに、社長を紹介すると約束をしていた。そのときはうれしそうだったが、珍しく社長が夜に来店をすると、
「やっぱり自分の力で頑張りたいので、やめておきます」
なんて素晴らしい意気込みだ、と思った自分が恥ずかしい。時間帯が違うから、会うことはないと思っていた社長が目の前に来て、怯んだだけだ。
他にもITの世界で、トップクラスの実力を持つ常連さんもいた。浅井さんだ。よく考えると、浅井さんが同席していたときの山内くんは、IT系の話を一切しなかった。僕たち側から話を振るのも、御法度のような空気感があった。2人とも実力は互角で、プライドを持って仕事をしている口ぶりだったからだ。
「今だから言いますけど、彼の話は矛盾だらけでしたよ。それなりに勉強はして、専門知識はあると思いますけど、数千万円を稼ぐのは絶対に無理です」
もっと早く言ってくれよ、なんて言っても後の祭り。それにしても、山内くんは運が悪かったとしか言いようがない。僕たちが働いているコンビニほど、いろんな人たちが集まる場所も珍しい。こんな場所で嘘をつくんじゃなかった、と思ったときには、引き返せなかったのだろう。
どうする? 真実を明らかにするべきか。特に被害を与えられたわけではない。金銭トラブルにでも巻き込まれていたなら、折檻は確定だが、シンプルに嘘をつかれていただけ。このまま何もなかったように、過ぎ去ることもできる。いや無理だ。今後もホラ話を聞かされたら、今まで通りのリアクションをとれる自信はない。やっぱり言うしかない。
問題は2つ。どう言うか。誰が言うか。大勢がいる状況で言って、恥をかかせるのは気が引ける。そう考えたら、答えは1つしかない。僕が休みの日に、責任者である店長が引導を渡すことになった。翌々日。出勤時に、店長から報告があった。
「言ったぞ。中野のツインタワーの話を聞いたら、認めたよ。買ったのは嘘で、借りてただけだって。他にも追及しようとしたら、帰っちゃったからさ。でも今日は嘘をついた皆に、謝りに来るってよ」







