山内くんの天才的なディベートはひろゆきのパクリ!

虚構に塗り固められた世界は音を立てて崩れていった
宣言通り、山内くんは店に来るや否や、僕の元へ来てこう言った。
「福田さん。お話があるんですけど、いいですか? 聞いてるとは思うんですけど、見栄を張って嘘をついてしまったことがありまして。中野のツインタワーなんですけど、実は買ったわけじゃなくて、借りてるだけだったんです」
「山内くん。もう楽になろ」
「え?」
「しんどいでしょ? 俺たちは別に、山内くんが金持ちだから付き合ってたわけじゃないよ? 本当は中野のツインタワー、借りてもないでしょ?」
「いや……」
「もういいから」
「実は……」
何かを観念したかのように、話し始めた。ITの話も嘘。別荘の話も嘘。リズムゲームの話も、暴走族の話も、全て嘘。おかしいと思っていた。留置所でカレーライスを食べたと言っていたが、僕は戦時中のような弁当しか食べていなかった。
毎週のようにスノボーの板を持って来ていたから、1シーズンだけでも50回は行っている計算だったが、実際は3回しか行っていなかった。50回に見せるために、板を持って家とコンビニを往復していただけだったのだ。とんでもない労力だ。
そこまでする理由はなんだ? 詳しく聞くと、彼が初めて嘘をつくようになったのは、小学生の頃。イジメが原因だったそうだ。嘘をつけば、周りがイジメるのをやめてくれる。自分を守るためには、嘘をつくしかなかった。そう聞くと胸は痛かったが、確認せざるを得ないことが、1つだけあった。
「手術の話も嘘だったの?」
あのときは、従業員が総出で、心の底から心配をしていた。
「僕は嘘と本当を使い分けて喋ってしまうんですけど、小学生の頃に、怪我で頭を縫ったことがあるのは本当なんです」
終わった。2年間の、虚構に塗り固められた世界は音を立てて崩れ去った。生死を彷徨う手術の話を、小学生の頃の話の脚色、と言い出したら終わりだ。
病室で早稲田大学の学生たちと、ディベート対決をしたと言っていたのも嘘か。いや待てよ。あれは本当か? 腐ったパンVS焼きたてのパンという議題で、焼きたてのパンを選んだ僕が、完膚なきまでに言いくるめられた。
この謎は、ネットで『腐ったパンVS焼きたてのパン ディベート』と検索をしたときに明らかになる。ひろゆきというディベートの天才が、ミキティと、腐ったパンVS焼きたてのパンでディベートをしている動画が見つかった。ひろゆきは腐ったパンを選んで圧勝。その動画の内容と山内くんの発言は、寸分の狂いなく同じだった。
毎日来店をすると言ってから、初めて店に顔を出さなくなっていたあいだに、家で動画の内容を暗記していたのだ。今となってみれば、彼がなんの仕事をしていたかは、定かではない。毎日のように、コンビニで深夜の1時から4時くらいまで滞在していたのだから、ニートだった可能性も高い。最後に1つ質問をした。
「正直さ、簡単に騙されるから、俺たちのことチョロいと思ったでしょ?」
「そうですね。正直チョロいと思ってました」
そこは嘘つかんのかい! やっぱりズレている。普通の人でも、今の質問には嘘をつく。今まで嘘をついてきて、肝心なところで、嘘をつかなかった。彼の話で本当だったのは、僕たちの店が好きだったということと、ポケモンが好きだったということだけ。当たり前だが、翌日から彼は店に来なくなった。
気持ちはわかる。僕もマナミに好かれようとして、見栄を張っていた。綺麗な彼女と釣り合う人間になるために、背伸びをした。身の丈に合っていない服を買うようになって、借金をした。そんな自分を愛してもらっても、偽りの自分を愛してもらっているだけ。名前を取り戻すには、本当の愛を知らなければならない。
「ごめん。実は俺さ、借金があるんだ。だから今日からワリカンでいい?」
口が裂けても言いたくなかったが、格好悪いのは承知で、全てをさらけ出した。予想に反して、彼女はイヤな顔ひとつ見せなかった。それからというもの、全てがうまくいくようになった。自分の情けない部分もさらけ出して、マナミに愛してもらえることで、自信を持てるようになった。ありのままの自分に、誇りを持てるようになった。
そうなったことで声も大きくなって、冴えた表情になって、堂々とした立ち振る舞いができるようになった。それは舞台上でも、存分に発揮することができた。こうして、仕事もプライベートも順調に進んでいった。ただ1つ。彼女の子どもである、翔吾君との関係だけは、うまくいっていなかった。
「45」は、次回6/24(金)に更新予定です。お楽しみに!!
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