誰にもマネできない!? 明石家さんまから習うプロフェッショナルの流儀

聴力を失う恐れがあったミュージシャンが取った行動
昔は世間から忌み嫌われる存在だった不良が、世間から愛してもらえる存在へと、変わることができた。さすがだ。さんまさんを断片的に真似しているだけで、結果が伴ってきている。
だが、大変なのはここからだった。数日間なら、さんまさんの一部を模倣することは、決して難しいことではなかったが、数ヶ月や数年となると話は違う。週6の夜勤バイト、週2のライブ。これによって、週に2日は徹夜の状態になった。ネタ作りの時間も欠かせない。さすがに寝ていない日くらいは、テンションを下げてもいいか? いやダメだ。さんまさんは、僕よりも忙しい毎日を送りながら、数十年も同じ状態を保っている。
こんな人を真似していたら、死んでしまう。そう思ったが、上京するときの僕は、生きるか死ぬかの賭けに出た。あのときの気持ちを、今こそ思い出すべきだ。そうわかっていても、体はついていかない。バイト仲間が僕の飲み物に苦い液体を入れたとき、不快感を顔に出してしまった。あのときは疲労がピークに達していた。
「リアクション悪いなぁ」
「芸人でしょ?」
周りの反応は冷ややかだった。さんまさんなら、テレビと同じようにオーバーなリアクションをとるはず。テレビとプライベートを分けていないというのは、証言者が多数いることからもわかる。トイレに入っているときに、尋常じゃない強さで扉を叩かれたこともある。1回や2回ならまだいい。行く度にやられるのだから、気が気じゃない。
また徹夜でライブに行って、帰宅後に寝ようとしたタイミングで、仲間のうちの1人からラインが送られてきた。動画を送ってきたようだ。再生ボタンを押すと、自分の家が映っていた。彼らはニヤニヤしながら、僕の家の中を探索し始めた。鍵の隠し場所を教えた自分も悪いが、エスカレートしていることに危機感を感じ始めていた。
極めつけは、マナミと喧嘩をして、別れ話になったときのこと。仲間たちに話すと、芸能記者に成りきって、インタビュー形式で質問をしてきた。これは流石にしんどかった。彼女との関係は修復したからよかったが、心が折れそうだった。さんまさんと僕は違う。芸人だからといって、普段まで面白いことをする必要はない。そもそも、芸人は個性を大事にしなければならない。逆に真似をするのは、良くないことだ。
もうやめよう。そう思っていたときに、1人の男から影響を受けることになる。安藤さんだ。彼は常連のお客さんで、バンド活動をしている。ジャンルは違うが、同じ夢追い人だ。彼もまた、常日頃から高いモチベーションをキープするように努力していた。そんな安藤さんが、珍しく落ち込んでいた。
「どうしたの? 今日、ちょっと元気なくない?」
「なんか耳の調子が悪かったから、病院に行ったんだよね。そしたら、聞こえなくなっちゃうかもしれないって言われてさ」
突発性難聴。彼にとって、音楽は全てだった。僕が芸人の活動を奪われるのと同じだ。どれほどの喪失感を抱いているかは、計り知れない。僕たちもショックを隠せなかった。かける言葉も見つからない。今まで毎日のように店に来ていた彼の姿は、パタッと見えなくなってしまった。このまま来なくなってしまったらどうしよう。変なことを考えていなければいいが。皆で心配をしていたが、1週間後。安藤さんは現れた。従業員一同は、歓喜の声を上げて出迎えた。
「安藤さーん! 久しぶりー!」
この声を聞いた安藤さんは、耳をダンボにするようなジェスチャーをして、聞こえていないフリをした。本当に聞こえていなかったわけではない。僕たちを笑わせようとしてくれたのだ。
このことを、あとで話す機会があったときに確認をしたら、本当は聞こえていたと認めた。医者に病名を聞いてから、1週間が経っていたとはいえ、傷は浅くないはず。普通なら、数年は思い悩んでもおかしくないような状況だ。心で泣いていた可能性は充分ある。でも、僕たちに気を遣わせないように、明るく振る舞ってくれたのだ。







