“笑いのカリスマ”千原ジュニアの番組から届いた初のテレビ出演オファー

千原ジュニアさんの番組からまさかの出演オファー!
そうこうしているうちに、緊急事態宣言は解除されて、舞台への復帰が決まった。相方のTikTok活動と、自分の小説の反響もあって、今までより応援してくれる人の数は増えていた。自粛中にネタ作りをしていたのも、良い方向に作用した。舞台での笑いが大きくなるにつれて、コンビでの活動にも花が開く。
数ヶ月後。いつも通りに夜勤のバイトに行くために、21時にセットしたアラームの音で、目を覚ました。ふと携帯に目をやると、吉本興業のマネージャーから着信が入っている。
こんなことは、滅多にない。なんせ、約600組を担当しているマネージャーさん。この人に認識してもらえるのは、全員ではない。ましてや、連絡がくるのは珍しいこと。まず間違いなく、悪い知らせではない。叩いてもホコリが出ないような生活を送っていれば、唐突な連絡があっても、マイナス思考にはならないのだ。次第に高鳴る鼓動。同時に寝起きのけだるさも、少なからず感じていた。
「もしもし。すいません。寝ていて、電話に出られませんでした」
「はい?」
「あ、福田です。コンビニで夜勤バイトやってるんで、今起きました」
「あ、福田くんか! そうか、そうか! えぇと、千原ジュニアさんの番組なんだけど、オファーがあって、出れるかなぁと思って」
千原ジュニアさん。言わずと知れた、笑いのカリスマ。僕が中学生の頃から、天才の地位を欲しいままにしている、憧れの存在。そんな人の番組に出られるなんて、信じられない。番組内容は、過去の失敗から学んだことをスピーチするという企画。
「すいません。ちょっと今、まだ頭が回ってなくて。え、誰が勧めてくれたんですかね?」
「いやぁ、わかんないけどね。どうする? 出る?」
収録日は、来週の水曜日。その日はバイトの予定だったが、二つ返事で引き受けた。シフトの代わりを見つけるためなら、なんだってする。もし無理なら、辞める覚悟もある。電話を切って、あふれる喜びを感じながら、気づいたときにはマナミに電話をかけていた。
「本当!? すごいじゃん!」
彼女は自分のことのように喜んでくれた。ようやく彼女を、安心させることができた。女手一つで育児をしながら、将来の成功を夢見ている男と付き合うのは、不安だったと思う。成功する、成功する、と口では言っているが、本当に成功する保証はどこにもない。
「絶対に健ちゃんなら、成功できると思うよ」
これはマナミの優しさだ。僕は自分の中で、確固たる自信があった。何を言って、何を考えて、何をすれば売れる、と。この道理は、他の人に話したら、途中で聞いているのが嫌になるくらい長くなる。マナミにも何度か話したが、途中で何を言っているのか、わからない表情をしていた。いけない。あと数分で、バイトの時間だ。電話を切って、バイト先に向かった。感情が追いつかない。
「いらっしゃいませ」
接客は上の空。というわけにもいかない。最近は人件費の関係で、夜勤は1人体制だ。常連さんと話して、盛り上がっていたら、並んでいるお客さんを待たせてしまう。もっと喜びに浸りたいが、最寄駅の終電の時間まで、客足は途絶えない。ようやく客足が減って、1人になったとき。立っていられなかった。
「良かったぁ。よっしゃー! ヤッタぞー!」
誰もいないコンビニの店内で、寝転びながら大声を張り上げた。長かった。本当に長かった。17歳で鑑別所から出てからというもの、更生をするにしたがって、人を笑顔にしたいと思うようになった。
そして、プロの芸人になることを誓って、約15年。初めてテレビに出演することができる。ずっと見る立場だった。いつか画面の中から、世間に笑いを届けたいと思っていた。その夢が叶う。収録は来週。不思議と焦りはなかった。今まで築いてきた全てを、ぶつけるだけ。
ワクワクが止まらない。状態はすこぶる絶好調だ。応援してくれている皆に、早く報告をしたい。とはいえ、時計の針は午前1時を回っている。連絡をするのは明日にしよう。バイトの休憩中は、本の続きを書くことにした。
過去の話をする企画ということは、小説が台本になる。物語の大枠は完成しているものの、見落としがあるかもしれない。それに普段通りの生活を、心がけたかった。テレビの収録が決まったからではなく、笑いを与える日常の延長に、テレビ収録がある。
翌日。店長に報告も兼ねて、シフトの交代をお願いしたら、快く承諾して祝福の言葉を投げかけてくれた。他の皆も、ご多分に漏れずエールを送ってくれた。姉にいたっては、誇らしいとさえ言ってくれた。非行に走っていたときは、一家の面汚しだった自分が、誇りになることができた悦びは大きかった。







