“笑いのカリスマ”千原ジュニアの番組から届いた初のテレビ出演オファー

彼女からの『今日はウチでお祝いしよう』というLINE
本番3日前。リモートで打ち合わせをすることが決まった。そこで番組の流れや、当日のスケジュールを教えてもらった。共演者の中には、芸人の大先輩であるラフコントロールの重岡さんがいた。来たる本番当日。言われた場所に行くと、楽屋が用意されている。
『福田健悟様』。てっきり大部屋だと思っていたが、違った。初めての体験なのに、脳には深く刻まれていた。この楽屋という存在が。記憶の中にあった幻が、現実になっている。楽屋のドアをノックする音が聞こえて、マネージャーさんが入ってきた。
「あ、おはようございます」
「重岡さんのところ挨拶に行った?」
「いえ、まだ来てらっしゃらないみたいで」
「そうか。じゃあスピーチの練習する?」
そう言って、何度も何度も練習に付き合ってくれた。しばらくして、重岡さんの楽屋に様子を見に行ったマネージャーさんが、帰ってきて重岡さんの到着を教えてくれた。楽屋をノックして、マネージャーさんが僕を紹介してくれた。
「重岡さん。後輩です」
「おはようございます! 吉本興業5年目の福田健悟です! 本日はよろしくお願いします」
「ラフコントロールの重岡です。よろしくお願いします」
「ジュニアさんって、もう来てるんですか?」
「いや、まだだと思いますよ」
「じゃあ、挨拶のときに一緒に連れて行ってもらっていいですか?」
マネージャーさんが、重岡さんにジュニアさんの楽屋挨拶へ同行するように、頼んでくれた。内間さんにしてもそうだったが、重岡さんの物腰も柔らかかった。売れている人は、皆そうなのだろうか。再び自分の楽屋に戻って、スピーチの練習をしていると、他の共演者の方々が続々と挨拶に来てくれた。
「こちらから行けずに、すいません。よろしくお願いします」
スピーチの練習に気を取られて、先に挨拶をできなかったことが、心苦しかった。テレビで見たことのある人たちを、自分みたいなペーペーの楽屋まで、挨拶に来させてしまった。
深く反省をしていると、重岡さんが楽屋に来て、ジュニアさんの楽屋挨拶に誘ってくれた。小判鮫のように、重岡さんの後ろをついて歩いた。『千原ジュニア様』。いよいよだ。重岡さんが、ジュニアさんの楽屋をノックした。
「失礼します」
扉を開けると、ジュニアさんの後ろ姿が目に入った。
「昨日はありがとうございました」
「おぉ〜! また今度な」
「あ、あと彼も……」
「失礼します! 吉本興業5年目の福田健悟です! 本日はよろしくお願いします」
「はい! お願いします」
ほんの一瞬だったが目を見ただけで、学生時代に寝る間も惜しんで、ジュニアさんのDVDを見ていた頃の自分がオーバーラップした。楽屋に戻って、着替え終わると……
「メイクどうぞ」
メ、メ、メイク? 今日は最初にして、急にタレント気分のフルコースを体験させてもらえるのか? ありとあらゆるタレントさんを担当してきたであろうメイクさんが、僕の髪の毛をセットしたり、ファンデーションを塗ってくれている。不思議な気分だった。メイクのあとは、すぐにリハーサル。数分のリハを終えて、本番直前。ここに来て、初めて心臓が鼓動の速度を早めた。
「福田くんって、どこ住んでるの?」
「東京の1番端っこなんで、知らないと思いますけど……」
「あぁ〜、わかるよ! あそこって家賃はいくらなの?」
「3万9千円なんですよ」
「安いなぁ」
「そうなんですよ。ボロいとこで、大変なんですよ。前なんか、ナメクジ出ましたからね! 普通ナメクジって、外で見るもんじゃないですか? 売れてない芸人は、こんな思いをしないとダメなのかって思いましたよ」
「ハハハ」
気づいたときには、マネージャーさんと楽しく話していた。本番前に、緊張している僕を見かねて、リラックスさせようとしてくれたのだ。
「ジュニアさん入られます」
「本番5秒前、4、3……」
ここからは、自分が今できる全てを出し切るだけだった。反省点がなかったわけではないが、楽しさが上回った。楽屋挨拶に行ったときよりも、ジュニアさんと目が合って、小さな所作や表情も見ることができた。
「お疲れさま」
番組が終わって、全てを見ていたマネージャーさんが、労いの言葉をかけてくれた。そのままジュニアさんの楽屋まで、最後の挨拶に行った。このときのジュニアさんの表情は、心なしか微笑んでいるようにも見えた。
「そういえば彼女いるんだよね? 楽屋弁当まだあるか見てくるよ」
マネージャーさんが、彼女と翔吾の分の弁当を持ってきてくれた。こんな幸せな時間を、今日で終わらせてはいけない。これから先ずっと、同じ生活を繰り返していく。
今までは漠然としていた夢が、明確になった。忘れ物がないかチェックして、テレビ局をあとにしようとすると、入り口にはタクシーが停まっていた。至れり尽くせりだ。走り出したタクシーから見える景色は、綺麗だった。スマホを取り出して見たら、マナミからLINEがきていた。
『そろそろ終わる頃だね。今日はウチでお祝いしよう』
照れくさかったが、有り難く祝ってもらうことにした。マナミに返信をしたあとで、マネージャーさんにも、改めて感謝のメールを送った。最高の1日だった。誰かが言っていた。良いことがあったあとには、悪いことがあると。そんなはずがない。ここまできて、急降下してしまうような人生なら、神に見放されている。この考えは、あとになって間違いだったと、わかることになる。
「45」は、次回7/22(金)に更新予定です。お楽しみに!!
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お笑い芸人・福田健悟が綴る、自伝的ファンタジー小説。福田健悟がアルバイト先で出会ったのが、頭脳も運動能力もどちらにも長けている天才。そんな彼の名は――。








