「ここは男性トイレ?」欧州の男女共用トイレで日本人女性が驚いたこと
誠実な日本人が信じるドイツ神話にイタリア幻想

レストランのトイレに入ると、洗面台には男性の姿があった。別の場所では、女性用トイレで入る場所を間違えたのかと戸惑った。ヨーロッパの公共施設でジェンダーに配慮した設備が増えるなか、現地で暮らす日本人女性は何を感じているのか。川口マーン惠美氏とヴィズマーラ恵子氏が、ドイツ・イタリア・フランスで経験した公共トイレの変化を振り返る。
※本記事は、川口マーン惠美×ヴィズマーラ恵子:著『誠実な日本人が信じるドイツ神話にイタリア幻想 -戦後81年目の答え合わせ-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

女性枠と性別の自己決定をめぐる疑問
川口マーン惠美:ドイツの左派政党、とりわけ緑の党や社民党は、長年「女性の権利拡張」を最重要テーマの一つとして掲げてきました。緑の党など、選挙では比例名簿を「女・男・女・男」と交互に並べるクオータ制を採用し、党首も男女共同代表にするなど、「女性の政治参加」を徹底して推進しています。
一方、ドイツではLGBTの流れの中で、「性別は本人の自己認識によって決まる」ということが法制化されました。それも、1年経って、やっぱり違うと思ったら、また変えてもいいのです。
性別を自分で決められるというのなら、性別に意味はないということです。だったら、なぜ政治家の数を男女の比率で決めるのか。完全に矛盾していると思います。
実際、地方政治の現場では、「女性枠」に入りたい男性議員が性別変更を申請し、“女性候補”として名簿順位を上げた——そんなニュースがSNSで話題になったこともありました。私に言わせれば、政治家にとって大切なのは性別ではない。国民全体のために良い政治をするなら、男でも女でもいいのです。
ただ、LGBTは、かなり神経質なテーマです。同性愛などはすでに当たり前になっているけれど、トランスジェンダーに関してはさまざまな問題がある。でも、少しでも疑問を口にすると、「少数派に対する差別だ」と批判される空気があり、扱いが非常に難しくなっています。
右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の女性議員が講演会で、「“人間の性は男と女の二つしかない!”こう言って私は3000ユーロの罰金を取られました」と語って、聴衆の笑いを誘っていましたが、実際に、男から女に性を変えた人にうっかり「Mr.」で話しかけると、訴えられても文句が言えないのが今のドイツの法律です。また、具体的な問題としては、公共空間での戸惑いもあります。
これは私自身が体験したことですが、デパートの女性トイレで手を洗っていたら、大柄な男性としか見えない人物が中から出てきたのでビックリ。「いけない、男性トイレだった!」と思って、慌てて出ようとしたところ、「大丈夫、私は女だ!」と野太い声。「そういう問題か!?」と思いました。
また、このことは別の場所でも書きましたが、シュトゥットガルト市役所で男性トイレにタンポンの無料配布ボックスが設置されたことが話題になりました。
嫌がる主人に頼んで写真を撮ってきてもらいましたが、確かに壁にディスペンサーが取り付けられ、「必要な方は1個だけ取ってください」と書かれていました。

しかし、考えてもみてください。これは、「体は女性だが“男性として生活している人”が市役所に来て、たまたまトイレに行きたくなり、たまたま生理だったけれど、たまたまタンポンを忘れてきた」というケースに配慮した措置です。いったいどれぐらいの需要があるというのでしょう?
シュトゥットガルトは、緑の党が政権を持っているバーデン=ヴュルテンベルク州の州都なので、彼の「やってます!」感の演出のような気がしてなりません。それに、元女性で、今も女性の人に対して、このような温かい配慮がなされているケースを見たことがないのは、なぜ?
ただ、おかしいと思っても、「税金はもっと有意義に使え!」とはなかなか言いにくい。誰だって、少数派の権利を踏みにじると言って槍玉に挙げられ、攻撃されるのは嫌ですからね。
「男女共用トイレ」に対する利用者の反応
ヴィズマーラ恵子:欧州にいると、「男女共用トイレ」が日本人の感覚以上に広がっていることにも驚かされます。特にイタリアやフランスでは、駅やレストラン、美術館、サービスエリアなどで男女共用トイレを見かけることが珍しくありません。
たとえば、ミラノで普通のレストランに入った時、トイレに向かうと男女共用だった——そんなこともあります。私も川口さんと同じように思わず「間違えて男性トイレに入ってしまった」と慌てていると、近くにいた男性が「いや、ここは男女共用だから大丈夫だよ」と教えてくれた。さらに「電気はここを押すんだ」「ちゃんと鍵、閉めてね」と親切に説明してくれるなど、そこにいる人たちにとっては“当たり前の光景”になっているのです。
ミラノ中央駅の上階トイレも男女共用ですし、フランスでも美術館や公共施設で同じような形式のトイレを何度も見かけました。もちろん、文化の違いと言えばそれまでですが、日本人からすると、かなり戸惑う場面です。
しかも、日本の「男女共用トイレ」のように完全個室が並んでいるわけではなく、狭い空間の中で男性も女性も一緒に出入りしているケースも少なくありません。駅や小規模レストランでは、ドアを開けたらすぐ洗面台、その奥に個室が並ぶような構造で、男女がひしめき合うようにして使っています。
そのため、女性がトイレに入ると、彼氏や夫が入口の外で待っている光景もよく見かけます。“見張り役”なのですね。だから、後から誰かが入ろうとすると、「今、彼女が入ってるから」と声をかけられる。そういう独特の空気感があります。
特に気が抜けないのが、高速道路のサービスエリアです。
イタリアでは、サービスエリアのトイレがほぼ男女共用になっている場所もあり、夜間に一人で入るのはかなり抵抗感があります。ドライブ中、「ちょっと休憩してコーヒーのついでに」という気軽な感覚で入ることはできず、「誰かについてきてほしい」と感じる女性も少なくありません。
さらにフランスのキャンプ場では、シャワー室まで男女共用になっているケースもありました。実際、モンサンミシェル近くのキャンプ場に行った時には、共有シャワーに不審な男性が入り込んできたり、覗きのような行為が問題になったりしたこともあり、夜になると、トイレやシャワー室、洗い場など施設内のあちこちから女性の悲鳴が上がっていました。同一犯が施設内を回っているようでした。
欧州では男女平等や、それに対する反発の議論がよくも悪くも活発なので慣れてはいますが、これは特に旅行者や外国人女性にとっては、カルチャーショックになりそうなテーマです。
- 写真 :
- ヴィズマーラ恵子












