連載第13回「隠れた憧れ」

真夏の街から逃げ込んだ、少しだけ冬の匂いがする場所

店内には一人で黙々と食事をする女性と、絶妙な距離感の男女が居た。
世間の重たい部分ともカジュアルな部分とも少し距離を置くようになった私は、純喫茶ってそういうところだよな、と必要の無い納得を得た。
今回私が漂流したお店は、下北沢にある「喫茶ネグラ」というお店。

壁に付けられた看板に蔦が伸びて店名の一部を隠している。
目立つ場所に堂々と置いてなんぼのイメージのおかげで、その葉っぱのかかった姿がやけにミステリアスに見えた。
ジリジリと頭を照り付けてくる太陽から逃げるように店内に入る。
涼しくて、外とは別世界みたいに落ち着いた暗さをしている。
寒い冬に駆け込んでも落ち着きそうな雰囲気がある。
というか、どこか冬の雰囲気を纏っている。

ソファに腰を掛けるとバネの存在を感じて、ここに座った数多の人がどんな時間をここで過ごしたのか少しだけ想像したくなった。
最近、周りの影響でほんの少しだけ効率的になった。
想像は注文の後にした方がよさそうだ。そもそも正解の無い想像などもっぱら効率の外側だろうが。
効率の外側
目当ては決まっている。ここへは「あんバタもちトースト」を食べに来たのだ。
大袈裟ではなく、もう美味しい。
目当てのトーストとアイスティーを注文した。
飲食店での待ち時間は、私にとって限りなく自由な時間だ。
おとなは常にしなければいけないことがある。けれどこの時間は、頼んだものを待つ時間である。
待つことでたまたま発生した、目的の無い時間。

この時間にやるべきことをできる人は非常に器用で、効率的で、あらゆるスキマ時間を有効活用できるすごすぎる人だ。
この食べ物を待っている時間私は、本当に必要の無いことをする。
引っ越す予定も無いのに物件を見たり、折る予定の無い折り紙の折り方動画を観たり。おかげで豆知識やいざという時の誰も知らない知識が多い。
みんなが仕事をして時間を潰す中、私は豆知識を蓄えている。最悪で最高だと思う。
- 撮影 :
- YOSHIHITO KOBA
- ヘアメイク :
- AMU(SHE)
- スタイリング :
- 加藤なお(ALCATROCK)









