「大木を蹴り倒した」規格外の巨人と悲運のケツキック対決!

安田さんとケツキック対決をする羽目に・・・
こんな非現実的なシチュエーションを作り出してしまうのが、ギャングイーグルの安田という男なのだ。1対100で戦って勝ったことがあると言われていた。普通ならありえないが、安田さんなら可能性はあると思ってしまう。
その予想は当たっていた。先輩が安田さんとしゃべっている話を、盗み聞きしたことがある。
「いくらなんでも、100対1はキツかったんじゃないですか?」
「あぁ、それな。よく言われるんだよ。でも考えてみろ。だいたいのヤツは170センチくらいだろ? お前もだけど。俺は2メートルあるから、30センチ違うんだよ。お前の30センチ下って考えたら140センチだぞ? 140センチなんて小学生じゃねーか。小学生が100人で束になってかかってこようが、屁でもねーじゃん。まあ一応、バットは持ってったけどな」
説得力がすごい。単純計算で考えることができるものではないが、安田さんの強さも合わせて考えれば納得のいく説明だった。
だが、1つだけ信じることができなかった話がある。それは、ウドの大木をキックで蹴り倒したことがあるという噂だ。それができたら、さすがに人間ではない。漫画に出てくるキャラクターでもない限り、不可能だろう。現実離れした人ではあるが、架空の存在ではない。これだけは自分の中で揺るがなかった。
この考えを改めずにはいられないショッキングな出来事に見舞われたのは、年末の忘年会の日。成人の先輩たちは見たことがないデカさのジョッキを片手に、ビールをグイグイ飲み干していた。場は大盛り上がり。活発で楽しい飲み会だった。そんな状況で、誰かが水を差すような恐ろしいゲームを提案した。
ジャンケンをして負けたら、ケツキックを受ける――。
勝負は目の前の人と行われる。僕の前に座っていたのは、安田さんだった。
「よぉーし! 本気でやれよ! 本気でやんなかったら、倍返しするからな」
腹をくくった。どうせ断われない。断腸の思いでジャンケンをした。
安田さんはチョキ。僕はグー。
あぁ、神様。ありがとう。まだ僕は人生を続けてもいいんですね。
いや、待てよ。ジャンケンに勝って良かったのか? 僕が安田さんのオシリを蹴る? 最凶最悪の男のオシリを? しかも本気でやれと言っている。
安田さんは、2メートルの巨体を半分に折り畳んで、僕のほうにオシリを向けた。やるしかない。覚悟を決めて、あとのことは考えずに全力で蹴った。
「もう1回だぁ」
「!?」
「さいしょーはグー! ジャンケンポイ」
また勝った。
「もう1回!」
悟った。これは僕が負けるまで、終わらないゲームだ。何回やっても僕の勝ち。負けるなら早く負けたい。勝てば勝つだけ、安田さんの機嫌が悪くなる。
ようやく4回目に、安田さんが勝った。見るからに気合いが入っている。もしウドの大木を蹴り倒す程のキックをするという噂が本当なら、オシリがなくなる。
頼む! 嘘であってくれ! この祈りも虚しく、安田さんが足を振りかぶった瞬間に死の予感がした。
「バッチーン!!」
雷が落ちたような衝撃。この例えは、決して大袈裟ではない。大至急トイレに行って、トイレットペーパーでオシリを拭いたら、ウンコがついていた。血ではなかったが、問題はそこじゃない。凄まじい破壊力だ。
通信制の学校で新たな出会い
2代目ギャングイーグル所属の安田。なぜ彼は2代目のリーダーじゃなかったのか。その答えはシンプルだった。それは2代目ギャングイーグルリーダーの伊口さんが、遥かに強かったからだ。
伊口さんは空手をやっていた。イケメンでファンクラブが設立されるほど。そんな伊口さんが一目を置く、小野啓介くんと僕は知り合い。自分も彼らのような男になれるかもしれない。少し身近な存在に感じた。入学したときは力の差が歴然だった高校の不良たちも、次第に大したことがないように見えてきた。
「昨日、タケルが3年にやられたらしいぜ」
こんな話を聞けば、迷わず仕返しに行く。相手が3年生であろうがおかまいなし。これを機にタケルとの仲は一気に深まった。
学校生活は決してつまらなくはなかったが、半年で退学。学校側からすれば邪魔な存在だったのだろう。もう朝早く起きなくてもいいし、嫌いな勉強もやらなくていい。そんな自由と幸せを感じていたのは、最初の3ヶ月だけ。
その後は退屈で退屈で死にそうだった。周りの友達が学校に行っている間は何もやることがない。それを察したのか、タケルは頻繁に連絡をくれた。学校がある日にサボって遊びに来てくれることもあった。
「学校は大丈夫なのか?」
「いや〜、健悟がいないと面白くないからさぁ。感謝してんだよ。あのときに健悟が助けてくれなかったら、俺も退学してたかもしんないからさ。本当ありがとうな」
仲間想いな安田さんや、強い相手にも立ち向かう龍さんに、少しだけ近づいた気がした。タケルと遊ばない日は、家で1日中ゲームをしていた。そんな僕を見かねて、母は通信制の学校へ入学するように勧めた。本当は嫌だったが、登校は週に1~2回と聞いて、暇潰しのために入学を決意した。
入学式に来ていた多くは知らない顔だった。1人だけ、見たことのある背中が目に入った。山岡大志だ。彼は同い年で、ギャングイーグルのメンバーとも仲が良い。ほかのチームではあるが顔見知りだった。式が終わって話しかけると、互いに心の拠り所を見つけたように自然と打ち溶けた。
当時は2003年。14年後の2018年に大志が書いた、Instagramの文章を引用する。
「本当に数少ない、ツレ。#親友。十六、七歳からやで十五年になるかな。付かず離れず、適当な距離感で、ざっくばらんに本音語り面白さを第一に生きる男。彼は夢の為、tokyoで芸人してます。コンビ名聞くのわすれたけど、いずれTVショーにでるでしょうwこいつは唯一、俺の人生の不幸話を話して大爆笑した変態野郎です。変わり者同士、通ずるのか馬があって腐れ縁です。何故か人が周りが引き寄せられる魅力を持ち、二人でいると最強なのでわ!と勘違いさせられます。色々話し過ぎて、身内より、俺の事を知っているであろうヤバい奴。今回、お父様が体調崩され帰省の僅かな時間を割いて会えました。戦友と呼ぶにふさわしい野郎。色々あるがお互い頑張っていきたいものです」
というわけで、最強になった2人は、驚きのスピードで退学をすることになる。







