お笑い芸人になりたかった。東日本大震災を目の当たりにした抑えきれない想い

自分発信で人に役立つことがしたい!
最初は少し不安だった。ひょっとしたら、今は放っておいてほしいと思っている人がいるかもしれない。そんな考えとは裏腹に、僕が話をした40人は、誰ひとりとして嫌な顔をしなかった。それどころか、涙を流して喜んでくれる人もいた。地元に戻ってから、届いた手紙を読んでもわかる。
『本当にありがとうございます。もったいなくて使えないので、棚に飾っています』
金額の大小は関係ない。気持ちが伝わったのだ。全ては水谷さんと、心優しく協力をしてくれた人たちのおかげだ。水谷さんからの誘いがなければ何もできなかった。今度は自分発信で、何か役に立つことがしたい。そうだ、歌だ。僕には歌がある。この頃には、啓介くんたちのもとから離れていたが、歌を歌うことは1人でもできる。
すぐさま楽曲作りを始めて、水谷さんと一緒にレコーディングをした。現地で感じたことを歌詞にして、歌と感情をディスクに吹き込んだ。それを自主制作でCDにすると、水谷さんの協力もあって、300人もの人たちが買ってくれた。
金額は水谷さんの考えで、無限の繋がりを絶やさないという意味を込めて、800円。売り上げは全て、現地の人々に送った。このことは新聞やラジオでも取り上げられた。数年前は『ギャングのリーダー逮捕』という記事が、新聞に掲載されていたが、数年後の今、『音楽を通じて被災地へ』と掲載されている。ようやく僕は変わることができた。そう思った。そんな時、テレビから聞こえてきた音声に耳が反応した。
「エガちゃん、ボランティアしたらしいね」
お笑い芸人の江頭さんが、ボランティアに行ったことをテレビでイジられている。江頭さんは、ボランティアなんかやっていないと嘯(うそぶ)いている。独特な世界だ。
「俺はボランティアなんかしてなーい! うぉぉぉ」
ダサい。どうしようもなくダサい。でも、どうしようもなく格好良かった。格好は上半身裸で、下半身はタイツ1枚。とてもじゃないが、オシャレと呼べる格好ではない。やっていることも下品で、馬鹿馬鹿しい。ただ、江頭さんがそうしているのは、全てファンのため。江頭さんのファンは、江頭さんの粗暴なキャラクターを面白がっている。そのイメージを壊さないように、テレビの中では悪ぶっているのだ。自尊心を満たすために悪ぶっていた昔の僕とは、雲泥の差だ。
僕は昔からお笑い芸人になりたかった。周りの目を気にして、ファッショナブルな音楽の世界に飛び込んだが、本当の僕は舞台上でズボンのチャックを閉め忘れて、笑われるタイプの人間だ。恥ずかしくて言い出せなかったが、芸人になりたいという思いは、心の中にずっと持っていた。もう自分に嘘はつけない。音楽で人を救うことができるのもわかる。でも僕は芸人の道を目指すことにした。
バイト中も、頭の中でずっと考えていた。お笑い芸人になるにはどうすればいいのか。東京や大阪には、吉本の学校があると聞いたことはあるが、地元にはない。やはり、東京か大阪に行くべきなのだろうか。そうしたいのはやまやまだが、現実的ではない。やっと重い腰を上げてバイトを始めたところなのに、貯金までするのはハードルが高すぎる。
そんなことを考えながら、バイト先の駐車場に置いてある自分の車に乗ろうとした時に、後ろから声をかけられた。そこにいたのは、「法務省 特別監査室 呼称返還係 第一主任」野口徹郎だった。
「45」は、次回3/11(金)に更新予定です。お楽しみに!!
親友の突然の死、彼女の浮気発覚…崩れ出した福田健悟の人生 | 「45」 | WANI BOOKS Newsクランチ!(ニュースクランチ!)
お笑い芸人・福田健悟が綴る、自伝的ファンタジー小説。「健悟。タケルが死んじゃった」。この一本の電話をキッカケに福田健悟の人生が崩れていく…。








