「1日に2回も警察呼ぶコンビニある?」若手芸人の普通じゃない日常

吉本から届いたハガキに書かれていた結果は・・・
そうこうしているうちに、店長が仕事を終わらせてくれていた。店内には家出少女を除いて、女性客が1人いる。そろそろ休憩をしたいが、買い物をしている彼女は、全く帰る気配がない。カゴには、ギッシリと商品が入っている。それも菓子やアイスを合わせて、50点ほど商品が入ったカゴを2つ。およそ計100点。すごい量だ。
まだ他にも商品を入れるのか? ウロウロしている。そして入口に近づいて、彼女は自動ドアの外に出た。あまりの事態に呆気にとられた。僕の視線に気づいたのか、彼女はミーアキャットのように首だけを向けて振り返った。目と目が合う、僕とミーアキャット。どちらも固まった。数秒後。彼女は走って逃げた。まずい。店長はバックヤードにいる。
「店長! 万引きです!」
大声で叫んで、即座に追いかけた。彼女は数十メートル先まで走っている。追いつけるか? 試しに全速力で走ったら、一瞬で距離を詰めることができた。遅い。商品が満タンに入った買い物カゴを2つ持っているからだ。大量万引き犯を捕まえることに成功した。
「ちょっと何してるんですか!」
「ハァ、ハァ、ハァ。やっぱり、ダメ?」
「そりゃそうでしょ!」
店長も後ろから追いかけてきた。店に残っているのは、家出少女が1人だけ。彼女を連れて店に戻った。家出少女は何食わぬ顔で携帯を触っていた。この状況に驚いていないのか。店長が警察に電話をしているあいだ、僕が万引き犯を見張っていた。彼女は泣きじゃくるばかり。電話を切った店長が近寄って言った。
「1日に2回も警察呼ぶことあるかよ」
おっしゃる通りだ。滅多にあるケースではない。10分経っても、20分経っても警察は来ない。店長は、万引き犯に1回目に警察を呼んだときの話しをしていた。その話しを聞いて、万引き犯は笑っている。怒る店長。笑う万引き犯。気づいたら、店長と万引き犯は楽しそうに喋っていた。なんでこうなるんだ? 結局、このあと警察が来て、彼女は連れて行かれた。同じく、家出少女もお父さんが来て、帰っていった。
「変わった1日だったなぁ」
そう言って店長は笑っていたが、変わっているのは店長も同じ。普段から変な行動が多い。まず第一に、異常なほど忘れっぽい。前日に聞いた話を、翌日にすることは多々ある。それどころか、10分前にした話を、10分後に伝えてくることも珍しくない。一番ヒドイのは、僕が伝えた話を、僕に伝えてくること。
でも、彼は町中のお客さんに愛されていた。天然パーマで、声がデカくて、体格もデカイ。よく笑うし、常に喋っている。愛される条件を、全て兼ね備えたような男だ。そんな店長でも、クレームをもらうことはあった。夜勤で一緒のシフトだったときに、僕は荷物の整理をしていて、店長が掃除機をかけていた。
「ピンポーン」
お客さんが来た。
「なぁ! フク!」
「はい」
「さっき話してたAV男優って誰だっけ?」
掃除機の音で、入店チャイムが聞こえていなかったとはいえ、痛恨のミス。大きな体から発せられた大きな声は、店中に木霊(こだま)した。僕はジェースチャーで手をバツの形にした。それを見て、事の重大さを察したようだが、時すでに遅し。お客さんはレジに並んでいた。遠くから見ていると、店長が必死に頭を下げているのがわかった。
次の日も、シフトは店長と同じ。済んだことを引きずるタイプではない。きっとケロッとしているはず。その思いとは裏腹に、店にいた店長は沈んだ顔をしていた。
「本部から電話かかってきたよ。クレーム入ってるって。深夜の店員が、仕事中に卑猥な言葉を使ってたって。で、従業員って誰なんですか?って聞かれたんだよ」
「なんて言ったんですか?」
「正直に答えたよ。僕ですって」
「どうなりました?」
「店長がやっちゃダメでしょって言われたよ」
最高だ。店長が自らクレームをもらうなんて、聞いたことがない。しかも内容が内容だ。商品を入れ忘れたり、値段を打ち間違えた場合は、相手に損害を与えてしまう。ただ下ネタを聞かせてしまった場合は、不快感はさておき、目に見える実害はない。笑える範囲だ。芸人の自分にとっては、絶好のバイト先。
それに付け加えて、僕の芸人活動に対して、店長は惜しみなく協力をしてくれた。オーディションや、ライブの予定が入ったら、シフトの融通を利かせてくれる。それだけじゃない。先輩芸人さんとやり取りをすることになったときを想定して、躊躇なくツッコミを入れられるように、自分の頭を叩いて練習をするように言ってくれた。相手のことを第一に考えられる人だ。
夕方のパートさんが、お客さんにクレームをつけられたときは、従業員をかばった。この場合は、相手のクレームが度を越していた。レジに来て、持っていたキャベツを思いっきり叩きつけて言った。
「もやしがねーじゃねーか! コノヤロー!」
もやしに対する愛情は伝わってくるが、女性従業員に対するバイオレンスな表現はいかがなものだろう。お客様は神様という考え方で平謝りする人は多いが、店長はそのお客さんを出入り禁止にした。こんな店長はなかなかいない。こんな店もなかなかない。
灯台下暗しだった。毎日のように変わったことがありすぎて、当たり前になっていたが、僕が話せるエピソードは身近に転がっていた。もしも、今日の面接と同じチャンスが次に訪れたら、今度こそ日頃のエピソードを披露する。そう決めた数ヶ月後。家のポストに、吉本興業からハガキが届いていた。
『NSC 22期生入学において、面接の結果は 合格 です』
あとは5月の入学式を待つだけだ。
「45」は、次回5/13(金)に更新予定です。お楽しみに!!
「吉本に入ればいいじゃないですか」フリー芸人・福田の挑戦がスタート | 「45」 | WANI BOOKS Newsクランチ!(ニュースクランチ!)
お笑い芸人・福田健悟が綴る、自伝的ファンタジー小説。刺激的な出会いの多い東京に喜ぶ福田は、新しく入ったアルバイトとの出会いで、ついに“あの事務所”の門戸を叩く!








