一世一代の決心で、ついに東京生活を始めた福田健悟。コンビニでのアルバイトは初日から珍妙な客のラッシュ、それどころか従業員さえ変わった経歴を持っていた。こんな人との出会いこそが東京だと喜ぶ福田。その後、新しくアルバイトとして入ってきた男との出会いで、ついに“あの事務所”の門戸を叩く!

アルバイト先のコンビニに現れる“珍客”や“猛者”たち

「スイマセーン、ヘルシーコンニャクありますか?」

外国のお客さんだ。ヘルシーコンニャクとはなんだろう。聞いたことがない。ダイエット食品か何かだろうか。兼元くんと斉藤さんは、忙しそうにしている。自分でなんとかしよう。

「オサケ、オサケ」

お酒のツマミか? ヘルシーなコンニャクということはわかるが、逆にヘルシーじゃないコンニャクがわからない。全てのコンニャクは、ヘルシーに見える。必死に探したが見つからなかった。この店にあるのだろうか。斉藤さんの手が空いたのを見計らって、声をかけた。

「すいません、ヘルシーコンニャクっていうオツマミありますか?」

「ヘルシーコンニャク? ひょっとしたらこれじゃない?」

「アー! ソウデス、ソウデス。アリガトウゴザイマス!」

彼が探していたのは、ヘルシーこんにゃくではなく、ヘネシーのコニャックというお酒だった。お酒に対する僕の無知と、彼の片言の日本語が招いた、御粗末な結末だった。

その外国人さんが帰ると、次は別のお客さんに声をかけられた。

「道を聞きたいんですけど」

「はい。どちらに行きたいんですか?」

「私の家なんですけど」

「え? 家?」

「そうなんですよ。ちょっと酔っ払っちゃったみたいで」

「あぁ〜、なるほど。そしたら住所を聞いてもいいですか?」

「はい。板橋区溜池の1-3-8-9-6-2-…」

多い、多い、多い。普段ならツッコミを入れているところだ。接客中の2人に聞くわけにもいかずに悩んでいたが、偶然にもお客さんとしてタクシーの運転手さんが来ていて、彼に乗せて行ってもらった。

息をつく間もなく、次は大きな声で電話をしている女性が入店した。

「ねぇ、なんであなたはいつもそうなの? もっと味わってよ。いつも言ってるよね? 味わってって! 味わってくれないなら警察に言うよ?」

夫婦喧嘩をしているのか? 味わってと言っているから、料理の話なのはわかる。ただ味わって料理を食べなかっただけで、警察に言われたらたまったもんじゃない。

「笑わないでよ! おかしいんじゃない? 百歩譲って笑うのはいいわよ! 味わって笑いなさいよ」

このやり取りを理解できるキャパシティは、僕の脳みそに存在しなかった。

何も買わずに立ち去って、一息ついていたら、矢継ぎ早に次なるゴングが打ち鳴らされた。80歳くらいの男性が、何も言わずにコッチを見て立ち止まっている。彼は、僕の名札を見て敬礼をした。

「福田総理大臣」

「ありがとうございます!」

感謝以外の言葉は見つからなかった。というより、湯水の如くあふれ出す奇天烈なシチュエーションに、感覚が鈍っていた。初日にして、異常なスタート。この変わった状況に対して、当たり前のように対応していた斎藤さんの気持ちが、少し理解できる。こんなことが毎日のように起きていたら、免疫がつくのだ。