「ウケると思った?」想像以上に殺伐としたNSCの授業には理由があった

「お前ナメてんのか」地獄の学校生活に転落!
隣にいたマイクデイビスや、テレビで見たことのある副社長。少しずつ芸人の世界に足を踏み入れている感覚になって、気分は高揚した。司会者のアナウンスにしたがって、時間まで漫画喫茶で暇を潰すこと、約4時間。学校に向かうと、外には長蛇の列ができていた。先輩芸人と思われる人たちが怒号を飛ばしている。面接のときとは全く違う雰囲気だ。恐る恐る見ていると、僕も注意を受けた。
「オイ! お前ポケットに何か入ってんだろ? 出せよ!」
「はい」
「はい、じゃねーよ! カバンも肩からぶら下げてんじゃねーよ」
なるほど。そういうことか。入学金の40万は、吉本興業としても逃したくはない。だから面接のときには優しくしておいて、中に入ればこっちのモン……とでも言わんばかりに、手のひら返しをするという算段。いいだろう。ある程度の覚悟をしていた自分には、何も問題はない。
この年齢になるまで、酸いも甘いも経験をしてきた。ギャングイーグルの先輩たちの圧力に比べたら優しいほうだ。だが、中に入ってみると、雰囲気はさらに殺伐としたものになった。
「それでは、説明会はじめていきます。よろしくお願いします」
「……」
「返事!!!」
「はい!」
「じゃあ、ペンを出してください」
「すいません。忘れてしまいました」
「ハガキに書いてあったの読んでねーのか? お前ナメてんのか、コラ」
こうして、地獄の学校生活が始まった。学校は週に4日。バイトは週に5日。夜勤が終わって、寝ないまま授業に出ることはザラだった。授業が始まる1時間前には集合。少しでも遅れると、教室には入れてもらえない。持ち物を忘れたり、挨拶を忘れても同様。
面接のときに、ゴールデンレトリバーを殺したと言っていた彼は合格していた。相変わらずブッ飛んだことをしている。ほかの皆も必死に爪痕を残そうとしていたが、先輩たちの圧力に耐えられず、徐々に大人しくなっていった。
そんななかでたった1人だけ、唯一この状況でも過激なことをする奴がいた。伊藤だ。野々村さんの授業でのこと。野々村さんは、芸歴20年以上にもなる二丁拳銃の修司さんの奥さんだ。野々村さんは、ネタを見てダメ出しをしてくれる。僕の次にネタを見せた伊藤が、とんでもなかった。
野々村さんはブログで、目から血が出るほど面白いことを考えるように、と書いている。それを知ったうえで、伊藤は目から赤い血の色に染めたテープを垂らして現れた。恐怖のネタの始まりだ。
「あぁ、どうしよう。目から血が出る。目から血が出るよ〜」
場は凍りついた。今すぐに止められても仕方ないネタだが、誰も止めない。誰か止めてくれ。この場にいる全員が、同じ気持ちだったと思う。こういう出来事をキッカケに、先輩たちは一気にピリつく。1秒1秒が長く感じた。
「あぁ〜、もうダメだ。血が止まらない。よし。終わろう。パンッ、パンッ。二丁拳銃」
終わった。こともあろうに、芸歴0年目の自称若手芸人が、芸歴20年以上の先輩をネタにしてしまった。しかも相手は、先輩の奥さん。伊藤。ご愁傷様。今から、野々村さんのダメ出しが始まる。どうなるんだろう。考えるだけでも恐ろしい。
「ナメられてんなぁ。ウケると思った?」
想像以上に地獄のような空気だ。さすがの伊藤も、心中は穏やかではないだろう。ところが、野々村さんの質問に対する伊藤の回答は、衝撃的なものだった。
「はい。爆笑必至です」
少し尊敬の念すら感じた。このハートの強さはなんだ。野々村さんは、自分の授業だけが全てではないからと、半ば諦めの気持ちで優しく諭した。授業が終わって、野々村さんが教室から出るのを生徒全員で見送った。
「オイ、伊藤! 立て」
入学式の日に、怒号を飛ばしていた先輩が叫ぶ。伊藤は事務所に来るように言われた。このあと、二度と伊藤の姿を見ることはなかった。







