ネタ出しをしない相方にイラつく僕に「女神」がやって来た!

目の前に現れた「女神」と過ごす幸せな日々
「おはようございます」
「おう、45! おはよう」
店長は僕のことを番号で呼んだ。
「いらっしゃいませ」
「タバコください」
「はい。何番のタバコですか?」
「45番で」
「かしこまりました。こちらでよろし……うわ! ビックリした。野口さん! 東京に来てたんですか?」
「はい。ごめんなさい。タバコは吸わないんで、戻してください」
「なんだ、45番って言いたかっただけか」
「少し話せますか?」
「大丈夫ですよ。今お客さんいないから」
「最近どうですか?」
「もうワケがわかんないですよ。今日も45って呼ばれるんですけど、何も悪いことしてないし。相方に腹が立っても、笑いに変える努力をしてんのに」
「なるほど。そこまで辿り着きましたか。安心してください。そのステージまでいけば、もう一息です。今までは、何をするか、何を言うかを意識してませんでしたか?」
「そうですね。できるだけ人のためになることをしたり、喜ばれるようなことを言ってきました」
「本当の意味で更生するには、何を思うかまで意識しないとダメなんですよ。ましてや、芸人さんなら尚更です」
「なんでですか?」
「自分が苦しんでいたら、人を笑顔にはできませんよね? イライラしていたら、人を笑わせる余裕なんて持てませんから」
お客さんが並んだ。
「おっと。邪魔になってしまいますね。じゃあ、最後に1つだけ。付き合う人は、考えないとダメですよ。人は影響し合って生きているんですから。誰と一緒にいるかは、大切なことなんです」
どういうことだ? 小山と解散をしろということか? ここで解散をしたら、今までと変わらない。それだけじゃなく、野口は何を思うかも影響すると言っていた。いくらなんでも、難しすぎないか? 思うことは、意識でコントロールできるレベルじゃない。
何かを考える前に、思うことは容赦なしにやってくる。完璧な人間になれと言われているようなものだ。このルールを考えたやつは、何を考えて……いけない、いけない。批判的な考えになるとこだった。
「すいません! すいませーん!」
「あ、す、すいません! こちら温めは……」
ボーッとしているあいだに、待たせていた女性客の顔を見て、言葉を失った。一目惚れだった。
「オホンッ! 温めますか?」
「はい! お願いします」
お釣りを渡すと、彼女は“ありがとうございます”と言った。本来“ありがとうございます”は、店側の人間が使う言葉だ。見た目だけじゃなく、内からあふれる美しさがある。女神だ。
この日から、彼女は頻繁に店に来てくれるようになった。翌日も、翌々日も。仕事終わりに来ているのだろうか。来ない日があると、気にしている自分がいる。2人の距離が近づくのに、そう時間はかからなかった。何度か接客をするうちに、自然と会話も増えて、連絡先を交換するようになった。うだつの上がらない芸人生活と、バイトの繰り返し。そんな張り詰めた日常に、1つの温もりが生まれた。
田中マナミ。彼女は素敵な女性だった。自分には不釣り合いなのではないか、と思うほど。デートで一緒に歩いていても、申し訳ない気持ちになってしまう。まだ売れていない芸人、ということは伝えているものの、彼女に不憫は思いはさせられない。
一緒に歩いているときに、情けない思いをさせないように、身の丈に合っていない服を着るようになった。デート代も、華を持たせてほしいと言って、全て支払った。バイト代だけでは足らずに、クレジットカードを持つようになって、毎月の支払いに追われる生活が始まった。
次第に収入と支出のバランスが崩れ始めて、気づいたときには100万円の借金を背負っていた。小山は、サイドビジネスが忙しいと言って、ネタ合わせの時間を作れない。どうせ芸人としての活動に時間を使えないのなら、暇を持て余すより、バイトをしていたほうがいい。悪循環だった。
バイトは、週4日から週6日になった。彼女は、僕が学費ローンを払い続けていることや、服を買っていることは知らない。見栄を張って付き合うべきではない、というのはわかっていたが、本当の姿を隠していたのは僕だけじゃなかった。何度目かのデートで、彼女は言った。
「実は、子どもがいるの」
「45」は、次回6/3(金)に更新予定です。お楽しみに!!
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