「私の幸せは私が決める」売れない芸人に決意をさせた“女神”の言葉

「死にたい」お客さんを救うために贈ったアドバイス
このタイミングで、未だかつてないほど、インパクトのある出来事が起こる。その日は、僕と後輩の2人で働いていた。後輩の森田はレジを担当して、僕はバックルームで作業をしていた。レジを終えた森田が、バックルームの扉を開けて言った。
「福田さん。この時間に来る人で、メガネをかけた20代前半のスーツ着た人って、わかりますか?」
「あぁ、わかるよ。先週くらいから来るようになった人だよな?」
「そうです。あの人が急に、死にたいって言ってきたんですよ」
「何それ。ヤバくない? でも、助けてあげたほうがいいかもな」
コンビニの店員に、死にたいという思いを吐露するのは、切羽詰まっている証拠。誰にも言えずに、最後に行き着いた場所なのではないか。そう思って、次回の接客では、少し踏み込むように言った。僕が代わりに言うこともできるが、話を又聞きしたとわかったら、ガラスのハートにヒビが入ってしまうかもしれない。
まず最初に、森田に伝えるように言ったのは、仕事の転職を勧めること。仕事帰りにコンビニに来て、毎日ビールを買って行く姿を、何度も目にしていた。表情は暗い。まず間違いなく、職場で鬱憤が溜まって、思い詰めている。
だとしても、現状で死ぬほど思い悩んでいるのは、簡単に転職できる状態ではないということ。自分のやりたいことだけをやってきた、僕とは違う。鑑別所から出たばかりの頃は、本に影響を受けて働いていなかった。その本には、こう書いてあった。
『生活のためにしたくもないことをして、人生の時間を無駄にしてはいけない。そんな人生は、生きているのではなく、死んでいる』
この言葉を自分の都合の良いように捉えて、働くことから逃げていたが、彼の場合は逃げることさえできずにいる。最悪のケースを避けるためにも、自分なりのアドバイスを森田に伝えて、代弁をしてもらった。数ヶ月後。
「福田さん。やりましたよ。ついに転職を決意したみたいです」
それからというもの、彼の表情はイキイキとし始めた。新しい仕事先にも恵まれたようで、休みの日にはスノボーの板を持って、コンビニに来るようになった。
「スノボー始めたんですか?」
「自分のしたいことをしようと思って。最近すごく楽しいんですよ」
「そうなんだ。悩みゼロって感じだ」
「はい!」
「良かったぁ。実は森田から聞いてたんですよ」
この頃には、腫れ物に触るように扱う必要もなくなっていた。毎週金曜日になると、決まってボードの板を持って、コンビニに来る。ざっと計算しても、ワンシーズンに50回は行っている。雪山で滑っている動画を見せてもらったら、テクニックは素晴らしい。とてもじゃないが、数ヶ月前に滑り始めたようには見えない。
「今日プロの資格を取るための大会があったんですけど、合格しました」
ここから、彼の人生は鰻登りに上昇していく。人間どんな才能を持っているかわからない。まさか、後に世界を股にかけるほどの活躍を見せてくれるとは、思ってもみなかった。
「45」は、次回6/10(金)に更新予定です。お楽しみに!!
ネタ出しをしない相方にイラつく僕に「女神」がやって来た! | 「45」 | WANI BOOKS Newsクランチ!(ニュースクランチ!)
お笑い芸人・福田健悟が綴る、自伝的ファンタジー小説。相方の小山の消極的な態度にイライラする福田。そんなとき、バイト先で出会った「女神」に一目惚れをして…!?








