「死にたい」男が予想を10倍超えるスゴい完全復活を果たした話

天才を襲った悲劇、福田を襲ったまさかの事態
そうこうしているうちに、スノボーのオリンピック予選を受けることが決まった。入選すれば、2022年の北京オリンピックへの出場が決定。そうなれば、僕たちも応援に駆けつけると約束をした。結果は4位。入選は3位までだった。上位3組は外国人選手で、日本人選手としては、実質1位だ。珍しく山内くんの目には、涙が浮かんでいた。残念ではあるが、スノボー歴1年でオリンピック予選の4位に残っただけでも、万々歳だ。
一夜明けると、前日の落胆は影を潜めて、次のオリンピックに向けて動き始めていた。同時に、ゲーム制作もスタート。費用を稼ぐために、睡眠時間を削って仕事に勤しんでいた。それでも店には毎日来て、僕たちの仕事を手伝って帰っていく。数ヶ月後には、新人よりも仕事ができるお客さんになっていた。
『見返りを求めてはいけない。私は雀士のかたわら、知人の仕事を無給で、手伝っていた』
この言葉は、20年間の無敗記録を保持する伝説の雀士が書いた本に記されていた。ほかにも僕が読んでいる本の内容と、彼の生き方はリンクしていた。やはり只者じゃない。さまざまな偉人たちと、肩を並べる生き方をしている。近くで見続けていれば、必ず良い影響を受ける。
彼は僕たちのヒーロー。無敵の存在だ。そう思っていた――。もう少し用心深く、観察しておけばよかった。僕たちがのぼせ上がっているあいだに、彼の身体は病に冒されていた。
「脳に腫瘍ができて、病院で遺書を書くように言われました。万が一のときは、このコンビニに届くようになっているので、よろしくお願いします」
そう言って、彼は入院をした。毎日来ると宣言をしてから、来なくなったのは初めてのこと。祈ることしかできなかった。ひょっとしたら、二度と会えなくなってしまうんじゃないか? 心配を拭い去ることはできずに、結果を聞くまでは穏やかではいられなかった。
だが数日後。奇跡の生還を果たした。しかも、土産話まで持って帰ってきた。さすがだ。転んでもただは起きない。同部屋に早稲田大学の学生がいて、ディベートをしたらしい。議題は、腐ったパンVS焼きたてのパン。どう考えても、焼きたてのパンを選んだほうが有利だが、山内くんは腐ったパンを選んで論破。試しに僕も挑戦をしたが、全く歯が立たなかった。そんなことよりも、何より無事に退院をしてきたことがうれしかった。
この喜びを分かち合うために、皆で盛大に退院祝いをした。これを機に、前にも増して絆は強くなった。店長にいたっては、家族ぐるみで一緒に温泉旅行に行くほど。疲れた身体を癒やして、今後は身体を大切にすると誓ってくれた。その約束通り、ゲーム制作は辞めて、スノボーと仕事だけに絞った。
それがキッカケで、力配分が均一に保たれるようになったからか、ビックチャンスを手にすることになる。グーグルの、アメリカ支社からのヘッドハンティングだ。この話を聞いても、ITに詳しくなかった僕はピンとこなかった。店長は、レベルの違うチャンスが舞い込んできた、と理解をしていた。あまりの驚きで、従業員の皆に報告をすると、昼間に働いている小田由美子という女性従業員がこう言った。
「2人ともさぁ、本気で言ってるの? もう目覚ましなよ! 今まで黙ってたけど、山内くんの話は嘘だよ」
「え? なんでそう思うの?」
「嘘に決まってんじゃん! 仲良くしてたから、言いづらかったけど、私はずっと前から気づいてたよ」
由美子も山内くんと同じで、毎晩のように、コンビニに遊びに来るメンバーの1人だ。自分の部屋をポケモンハウスに改装したと言って、山内くんが携帯画面を見せたときに、由美子は画像を検索していた。そのときにネットで見つけた画像と、山内くんの見せてくれた画像は、全く同じだったそうだ。
だからといって、全てを嘘と決めつけるのは、時期尚早だ。もう山内くんとは、2年の付き合いになる。彼は自分がしんどいときでも、何も言わずに、僕たちの仕事を手伝ってくれるような男だ。そんな男が、嘘なんかつくとは思えない。
そこに山内くんが登場。このとき、彼から聞いた言葉には、耳を疑わずにはいられなかった。
「実は僕、CIAの諜報員なんですよ」
「45」は、次回6/17(金)に更新予定です。お楽しみに!!
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