『ガネーシャ 福田健悟』芸人引退を踏み留まらせた父親の検索履歴

福田健悟がどうしても父親に謝りたかったこと
初めて知った。いつもそうだ。昔から本人がいないところで、相手の話を口にする。さっき、母に席を外すように言ったときもそうだった。僕の尊敬する芸人さんたちも同じ。ボランティアに行った事実を隠して、悪ぶる江頭さん。気功で息子さんを治したという話を、世間に伏せていた明石家さんまさん。
尊敬されようと思ったら、言ったほうがいいようなことを、笑いのために隠している。これが芸人として、理想の在り方だと思っていた。だが、父は芸人としてではなく、人間として理想の存在だった。憧れの存在は雲の上にいて、手が届かないと思っていた。こんな近くにいたなんて、気付かなかった。
僕はバカだ。自分が憧れてきた人たちを見ればわかる。知らないうちに、父の背中を追いかけていたのだ。母の幸せを第一に願う男。
翔吾も同じ。怪我を隠して、母親を心配させないようにしていた。彼は父親がいない代わりに、自分が大好きな母親を守りたかった。売れていない芸人なんかに、任せたくなかった。だから口をきいてくれなかった。そんな翔吾も、今は僕のことを応援してくれている。あと少し。あと少しだけ。わがままを続けさせてもらおう。父が戻ってきた。
「謝りたいことがあってさ」
「なんのことだ?」
「昔のことなんだけど」
「昔のことなんか、謝ってもらわなくていいぞ」
「ずっと引っかかっててさ。ご飯食べてるときに、言い合いになったこと」
「そんなこと覚えてねーな」
僕はハッキリ覚えていた。夕飯を食べているときに、父とニュースを見ていた。ある国が、敵対する国に対して、武力を行使しているというニュースだ。そのニュースを見て、武力を行使するのは、仕方がないと言う父。それに対して、異を唱える僕。
「力でねじ伏せても、強いやつが意見を通せるってなるだけじゃん」
「それでいいんだよ。アイツらに意見を言わせたらダメなんだから」
「じゃあ、俺が今から外に行って、コンビニでたむろしてる不良を全員ぶっ飛ばしたら、褒めてくれる?」
「何言ってんだ?」
「忘れたのか? 口の聞き方が悪いって言って、俺を殴ったことあるだろ? あれは自分の意見を通したかっただけじゃねーのか? 俺が弱かったからできただけだろ! 今の俺に同じことができんのかよ!」
どっちの考え方が正しかったか、間違っていたかは問題ではない。問題は、僕が父に対する感謝を忘れていたことだ。この日のことは、忘れもしない。







