『ガネーシャ 福田健悟』芸人引退を踏み留まらせた父親の検索履歴

父親に謝ることで取れた長年の心のつかえ
次の日になると、父は仕事を休んで、リビングで寝込んでいた。留置所に面会に来たときは、怒るわけでもなく、心配をしてくれた父。不良グループの元締めに追われて、殺されかねない状況のときは、ナタを持って家を飛び出そうとした父。その恩を忘れて、酷いことを言ってしまった。たとえ父が覚えていなくても、謝るべきだ。
「覚えてない? 昔ご飯を食べてるときに、ニュース見ながら……」
「覚えてるに決まってるだろ」
「え? さっき覚えてないって……」
「健悟の言ったことはな、一語一句、全部覚えてるんだよ」
まただ。そんなふうに思っていたなんて、全く知らなかった。17年前の僕は、父が僕に興味を持っていないと思い込んで、挨拶すらまともに交わさなくなっていた。あのときに、今の言葉を聞いていたら、態度を改めていたかもしれない。
でも、父は17年間、その思いを胸に秘めていた。表に出していないだけで、父はいろいろと考えている。そう母に言われたこともあるが、父をかばっているだけだと思っていた。
最近になってわかり始めた、真実の愛。それは見返りを求めない愛だった。18年間も、誤解をされ続けたまま、黙って見守ってくれていたのだ。それは言葉なんかで体現できるような、薄っぺらいものではない。一気に18年分の父の思いが、胸に押し寄せた。
僕も、翔吾に似たような気持ちを持っていた。どれだけ心を閉ざされても、わかってくれると信じていた。とはいえ、翔吾と僕の場合は、僕が歩み寄らないといけない立場。それでも、翔吾は心を開いて謝ってくれた。悪いのは、翔吾じゃない。そうわかっていても、うれしかった。たった一言で、受け入れてもらえたことが、伝わったからだ。やっぱり、言わなきゃダメだ。
「すいませんでした」
心がフッと、楽になったのがわかった。長年のつっかえが取れた気がした。伝えて良かった。もう会えないと、心の底から思っているわけじゃない。その可能性がゼロ%じゃないなら、言っておかないといけない大事なことだったのだ。問診の時間になって、帰ることにした。
「あんまり簡単なことは言えないから、1つだけ言うよ」
「ん?」
「またね」
「ハハハ。またな。今日は来てくれて、ありがとう」







