『ガネーシャ 福田健悟』芸人引退を踏み留まらせた父親の検索履歴

東京にも僕のことを待ってくれている人たちがいる
父の口から感謝の言葉を聞いたのは、生まれて初めてだった。これは、父が無口だったこととは関係ない。今までの僕が、感謝をされることをしてこなかったからだ。母は夕飯の支度をするために、先に帰っていた。代わりに迎えに来てくれたのは、姉だった。
「どうする? 実家に帰る前に、手土産でも買っておく?」
「あぁ、土産なら買ってきたよ」
「え!? 嘘!」
姉は二度見をして、驚いた。もし買ってないなら、自分が代わりに買ってもいいと思っていたとのこと。そんなふうに思わせてしまうくらい、少年時代の僕は未熟だったのだ。家まで向かっている道中の景色は、懐かしかった。7年間で変わったところもあるが、大半は変わっていない。僕が帰ってくることを聞きつけて、実家には姪っ子や甥っ子も集まってくれた。
「ただいま」
「よく帰ってきたね」
祖母は目頭を熱くしながら、ギュッと僕の手を握った。姪っ子たちは、恥ずかしそうにしている。このなかには、僕が上京をする当時、0歳だった赤ん坊もいる。今は7歳だが、彼女からしたら目の前にいる僕は、知らないオジサン。人見知りを発動されても、仕方がない。
東京での生活は約7年。曲がりなりにも、芸人としての色を大切にしながら生きてきた。嫌なことがあって、黒ずんだ人生を送っていても、明るく元気に振る舞って、オレンジや黄色の明るい自分に塗り替える。そうしているうちに、塗り替えた自分が、本当の自分のような錯覚に陥っていた。自覚はなかったが、父や母や祖母や姉の前でも、塗り替えたままの自分だったと思う。大人は気づかなくて当然だ。それは、誰しも社会に出て生きているなかで、少なからず取り繕って生きているからだろう。
子どもたちも、僕に違和感を感じていたようには見えなかったが、話しているうちに、少しずつ白色に染められていく感じがした。マズい。せっかく積み重ねてきたものが、崩れてしまう。何色にも染まっていない無垢な存在の前では、仮面を被ってはいられない。
気づいたら、7年前の自分に戻っていた。体の力が抜けて、リラックスしきっていた。頭の中に湧いてくる感覚。もう東京には戻りたくない。そう思うくらい温かかった。
久しぶりに食べる母の手料理。鑑別所から出てきたときとは違う感動。がむしゃらに走り続けた7年間の疲れを癒やすように、風呂で体を洗った。ナメクジが出たり、ネズミの走る音が聞こえるようなボロい家に住んでいて、ユニットバスだから浴槽に入るのも7年ぶり。
ここ3~4年は週1日以上休んだことがない。家に帰ったら洗濯をして、ゴミ袋を変えて、掃除機をかける。ご飯も自分で用意しなければならない。突然エアコンが壊れて、ガスが止まったこともあった。ふと目を下にやると、蟻の行列が床を歩いていたこともある。それに付け加えて、みんなが僕の活動を応援してくれている。それは、彼らだけじゃない。東京で待ってくれているみんなも、大切な存在だ。ダメだ。帰らないといけない。切り替えよう。こうして地元に別れを告げて、東京へと足を傾けた。
「45」は、次回8/5(金)に更新予定です。お楽しみに!!
彼女へのプロポーズに燃える福田にかかってきた母親からの悲痛な電話 | 「45」 | WANI BOOKS Newsクランチ!(ニュースクランチ!)
小説の連載開始、そして“お笑いのカリスマ”である千原ジュニアの番組から届いた出演オファー。福田健悟の人生は、すべていい方向に回り始めた…はずだった。








