「45」最後の一日。福田健悟に降りかかった過去最大のトラブルとは!?

翔吾を守るため福田がとっさに取った行動とは!?
「もしもし」
翔吾だ。
「……」
「どうした?」
黙っている。うっすら鼻をすすっているような音が聞こえる。泣いているのか?
「……何されても我慢してたんだけど」
「え?」
「気づいたら下に落ちてて、動かなくなって」
「今どこにいるんだ?」
「どうしよう……」
「いいから場所は! 今どこなんだ!」
「家の近くの薬局の裏……」
嫌な予感がした。電話を切ったあとで、何も考えずに走ったが、心のざわつきは止まらなかった。言われた場所に着いて、翔吾の姿を見た瞬間に、考えうる限り最悪のケースが、現実に起きていると理解した。
「翔吾! どうしたんだ!」
「……」
異常なことが起きているのは、一目瞭然だ。尋常じゃない汗をかいている。辺りは静かだ。彼の視線の先には、用水路の下に、血を流している学生が倒れていた。公園で翔吾をイジメていた、不良の1人だ。
「最近は何もされてなかったんだけど、帰りに急に声をかけられて、健ちゃんをテレビで見たって。あのときのヤツだろって。公園で脅されたことバラすぞって。殴られても我慢してたのに、息ができなくなって、抵抗したら、用水路に落ちてて……」
曲がり角から、人の声がした。
「逃げろ」
「でも……」
「いいから逃げろ! あとは俺がなんとかするから! このことは、誰にも言うなよ」
「だって……」
「だってじゃねーんだよ! 絶対に誰にも言うなよ! わかったな? 翔吾! 返事しろ!」
泣きながら頷いた。
「約束破るなよ! 絶対だぞ? いいか? よし! じゃあ行け! 早く!」
離れようとしない翔吾の体の向きを変えて、背中を押した。もつれたような走り方で、決して早くはなかったが、なんとか姿は見えなくなった。
「あれ? ガネーシャの福田さん? この辺に住んでるって本当……うわーっ!」
赤く染まった用水路の水と、倒れている学生の姿を見て、通行人は大声をあげた。異様な空気感を察したのか、後ずさりをしながら、誰かに電話をしている。数分後。サイレンの音が聞こえて、3台のパトカーが目の前に止まった。
「何があったんですか?」
「……」
「コッチに来なさい!」
2人の警官に押さえつけられて、パトカーへ乗せられた。近所の住民は僕を見て、怪訝そうな顔をしている。警官も、僕の正体には気づいている様子だったが、指摘はしなかった。署に着いて、取り調べ室で尋問が始まった。
「あなた、ガネーシャの福田さんですよね?」
「……」
「あなたがやったんですか?」
「はい」
このあとの説明では、急に絡んできた学生を、口論の末に突き飛ばしたと答えた。あの薬局の近くに、家はなかった。だから目撃者もいない。歩いていたのは、通行人が1人だけ。彼が現れたのは、翔吾の姿が見えなくなったあとだ。警官は僕の主張を受け入れて、部屋を出て行った。
30分ほど経って、取り調べ室のドアが開いた。入ってきたのは警官ではなく、野口徹郎だった。一直線に椅子に向かって座ると、タメ息をついてこう言った。
「ふぅ。あなたって人は、馬鹿な人だ」
「……」
「誰の罪をかぶってるんですか?」
「……」
「あそこで何してたんですか?」
「……散歩だよ」
「それにしては、タクシーを降りてから現場に行くまでの時間が早すぎませんか?」
いつもそうだ。関わらなくていいことにまで、関わってくる。
「散歩って言ったのは、言葉のあやですよ。運動のために走ってたんです」
「でも、被害者の死亡推定時刻から逆算すると、福田さんがタクシーから降りて、走って現場に向かったとしても辻褄が……」
「もういいだろ! 俺がやったって言ってんだから、放っといてくれよ」
コイツは何もわかっていない。わかったつもりになっているだけだ。翔吾のことを知っていたら、パンドラの箱を開けるようなことはしない。わかったような顔をして、自己満足をしているだけだ。しばらく沈黙が続いて、何かを悟ったような顔つきになった野口は、静かにポケットから名刺を取り出した。
法務省 特別監査室 呼称返還係 第一主任 野口徹郎
「その横に書いてあるマーク、何かわかります?」
家紋のようなマークが記されている。
「それは弁護士マークです。実は私、弁護士の資格を持ってましてね。有名な事件も、担当したことあるんですよ。今回の被害者は中学生。まえに彼女さんの息子である翔吾くんは、中学校でイジメられてるって言ってましたよね? ひょっとしたらイジメっ子に絡まれて、何かの拍子で用水路に落としちゃったんじゃないですか?」
全てをわかっているのに、明らかにしようとしている。なんなんだ、コイツは。いったい、どうしようとしてるんだ。
「45」は、次回8/19(金)に更新予定です。お楽しみに!!
父親の手術成功を祈る福田の「もう一つ」の願いとは? | 「45」 | WANI BOOKS Newsクランチ!(ニュースクランチ!)
危篤の父親を前に、今までの自分の過ちに気がついた福田健悟。父親と心からわかり合うことができた福田が、完全に名前を取り戻す日が刻一刻と近づいていた。








