危篤の父親を目の前にして、自分の親不孝さを自覚し、父親と話すことで胸のわだかまりが解けた福田健悟。父親の無事を祈る傍ら、福田には完全に名前を取り戻すキッカケになる、もう一つの転換点が訪れようとしていた。

頑固だった自分に気づかせてくれた親友・大志の存在

新幹線には名古屋駅で乗ることした。その前に、岐阜駅から名古屋駅まで行って、大志と会う約束をしていた。ずっと連絡は取り合っていたが、会うのは久しぶりだった。

「親父さん大丈夫だったんか?」 

「まあ手術次第だけど、信じるしかないな」

「そうか。……あ、そうだ。インスタの写真とろうぜ」

大志はニートだった。親からお金を貰って生活をしている。今の僕には受け流せない事実だ。ひと通り話も尽きたあとで、確認をした。

「まだニートやってんの?」

「まあな」

「働いたら?」

「そういう気分じゃないんだよね」

「親がいて当たり前だと思ってねーか?」

「なんだよ。それ」

「もう親父に苦労かけんなよ!」

「お前に関係ねーだろ」

悪い空気が流れた。せっかくの再会ムードがぶち壊し。僕が悪いのだろうか。小山と解散をする前に、野口徹郎に言われた言葉が頭に甦る。

「いいですか? 福田さん。付き合う人は考えないとダメですよ。人は影響し合って生きているんですから。誰と一緒にいるかは大切なんです」

これ以上コイツと一緒にいたら、自分がダメになる。道を踏み外しているやつを、野放しにするのは正しい行為ではない。本当の友達なら、厳しいことも言うべきだ。何より、自分の父親を侮辱されているような気分だった。

「じゃあ、俺とお前の関係もここまでだな」

財布からコーヒー代を出して、テーブルに置いて店を出た。誰かとトラブルを起こすのは数年ぶりだが、後悔はない。大志から謝罪のラインがきた。いつものことだ。喧嘩をしたときに、先に謝ってくるのは、必ず大志のほう。アイツは僕のことを頑固だと言うが、間違っていないのに、謝る必要はない。

いつもなら、大志の謝罪を受けて元の関係に戻るが、今回は無理だ。これで許してしまったら、コイツがダメになる。自分勝手な人間のまま変わらない。10代の頃に連絡をしても、折り返してこなかったことがある。そのときに、メールで心配していることを伝えると、数週間後に折り返しの電話があった。

「ワリーワリー。携帯の画面にお前の名前が出てきた瞬間に、面倒くせーと思ってさ」

こんなことを、平気で言ってくる。そのくせに、コッチが連絡を返さないと文句を言う。勝手にもほどがある。しばらく会っていなくて、数年ぶりに電話をしたときもそうだ。

「久しぶり。今日なんか予定ある?」

「あぁ、今日は嫁が実家に帰るって言うから……」

「嫁!?」

「あぁ、そっか。結婚したんよ。で、嫁がいないあいだは、俺が子どもの面倒……」

「ちょっと待て! 子どももいるのか!?」

「言ってなかったっけ?」

こんなやつだ。結婚したことを、長年の友達に報告しない薄情なやつ。結婚式はしていないらしいが、問題はそこじゃない。こんなやつと、ここまでやってこれたほうが不思議だ。もちろん、一方的に彼が悪いわけではない。これは、大志が居酒屋の店長をしていた頃の話。僕は鑑別所から出てきて、数ヶ月間バイトをしていなかった。

『生活のためにしたくもないことをして、人生の時間を無駄にしてはいけない。そんな人生は、生きているのではなく、死んでいるのだ』

こうやって本に書いてあるのを読んで、自分の都合良いように解釈して、働いていなかった。そんな僕に、大志は一度だけ言った。

「働いたら?」

そう言われても、耳を傾ける気にはなれなかった。ここから半年後にバイトをすることになるのだが、決して大志に言われたことが、キッカケになったわけではない。自分自身が、今のままじゃダメだと思ったからだ。人は誰かに何かを言われて、変われるものではないのかもしれない。今回のことで、僕は大志を変えようとしていた。やっぱり僕は大志の言うように、頑固だったのだ。

『俺もごめん』

新幹線に乗ったあとで、ラインをした。