愛するマナミと翔吾を守るため… 罪を被る福田に野口徹郎が声を荒らげる!

あの冷静な野口徹朗が珍しく声を荒げた
1週間後。捕まった当初の、鬱屈とした気持ちはなくなっていた。17年間で培った、前向きに生きるコツは、最悪の状況でも活かすことができた。これが翔吾のためになると考えたら、幸せだと思えるくらいに、吹っ切れていた。
ここに来て3回の取り調べを受けたが、昔と同じように、根掘り葉掘り尋問を受けた。こうなることは、わかっていた。何を聞かれてもいいように、事前に全てのパターンの答えを用意しておいた。滞りなく取り調べは終わって、刑はほぼ確定していた。3日後。4回目の取り調べで、流れが変わった。
「あなた、誰かをかばってるんですか?」
「え?」
「あなたの弁護士が、テレビに出て話してるんですよ」
野口だ。あの野郎。何様のつもりなんだ。許さない。何がなんでも、話したことを全て撤回させる。
「アイツの言ってることは、全て嘘です! 弁護士なんかつけてないし、殺したのは僕です。今すぐソイツを止めてください」
「もうすぐ面会に来るそうなんで、自分で伝えてください」
せっかく安定していた精神状態が、荒ぶり始める。どこまでアイツは、引っ掻き回せば気が済むんだ。
「喜んでください、福田さん。なんとか罪は晴れそうですよ」
「取り消せ」
「え?」
「言ったこと全部、取り消せよ!」
「なんでですか?」
「なんでですか? じゃねーだろ! 余計なことすんなよ! お前が良いと思ってしてることはな、俺にとっては良いことじゃねーんだよ!」
「それは、私があなたに言いたい言葉ですよ」
「はぁ?」
「あなたが罪をかぶることは、翔吾くんのためになるんですか?」
「そんなの関係ねーだろ!」
「あなたが17歳で捕まったときは、誰か罪をかぶってくれたんですか?」
「あのときとは、状況が違うだろ! あのときは俺が悪かったけど、翔吾は悪くないんだよ!」
「じゃあ、悪くないって証明しましょうよ! あなたは、本当は翔吾くんが悪いことしたって、心の中で思ってるんじゃないですか?」
「そんなわけねーだろ!」
「じゃあ、なんで隠すんですか! 悪いことしてない人が隠れる必要あるんですか? 悪いことしていない人が、怯えて暮らさないといけないのは、おかしいでしょ!」
野口徹朗は珍しく声を荒らげた。
「本当のこと言ったって、みんなが信じるとは限んないだろ」
「本当のことを信じないほうが正しいんですか? 嘘をでっちあげるほうが正しいんですか?」
何も言えなかった。自分を責めることが、正しいと思っていた。僕が恫喝さえしていなければ。僕がテレビにさえ出ていなければ。こう考えることで、戦うことから逃げていただけだった。
「今回のケースで言えば、悪いのは彼をイジメていた相手のほうです。あなたがテレビに出てようが出てまいが、そんなことは関係ありません。確かに人の命を奪うのは良くないこと。でも翔吾くんには悪意があったわけではない。自分の身を守っただけです」
全ては、彼の言う通りだった。
「それに、人それぞれ乗り越えるべき課題は違います。自分の課題は、自分で乗り越えなければならない。彼が自分の課題を自分で乗り越えられないような弱い子だと思いますか? 私は彼に会って、強い子だと思いました。あなたは、彼を信じてあげることができないですか?」
首を横に振るしかなかった。
「じゃあ、私に任せてください。必ず彼の無罪を証明してみますから」
「……お願いします」
どうか。どうか神様。翔吾を守ってください。離れたところにいる自分には、祈ることしかできない。あまりにも不甲斐なくて、情けなかったが、今まで野口徹朗がしてくれたことを思い出した。彼がしてくれたことで、僕のためにならなかったことは何1つない。信じるしかない。彼なら大丈夫。一度は捨てていた希望に、再び灯火がともり始めた。そして4日後。
「福田さん。外に出る準備をしてください」
房の施錠が解除されて、牢屋から出るように言われた。警官に連れられて留置所から出ると、マネージャーが待っていた。
「おかえりなさい」
「翔吾は? どうなった!? 世間にさらされてないよな?」
「大丈夫です。あの弁護士さんが、なんとかしてくれました。あれ、誰ですか? テレビに出て、世間に訴えることで、世論を味方につけました。福田さんも、本来なら犯人隠避で罪に問われるところでしたけど、無罪になりましたよ。翔吾くんのことも、徹底的に表に出ないように手を尽くしてくれたみたいです」
どれだけ感謝をしてもしきれない。
「それよりも、今はマスコミの対応をしないといけません。外には記者たちが集まっています。短時間ですが、外に出るまでのあいだに、コメントを考えておいてください。いいですか?」
手続きを済ませて外に出ると、多くのフラッシュとシャッター音に包まれた。収まるまで頭を下げ続けて、音が鳴り止むのと同時に、記者たちからの質問に答えることになった。
「福田さん! 今回の事件について詳しく教えてください」
少ない時間なりに考えたことを、話そうと思っていた。それは、今この場をやり過ごすだけの、表面的な答えだった。でも話し始めたら、知らないうちに、自分の胸のうちを全て言葉にしていた。
「45」は、次回8/26(金)に更新予定です。お楽しみに!!
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