コンビ解散を繰り返し…バイトを通してコミュ力を高めることにした

福田健悟? それとも45? バイトで学んだ人間関係
このままでは芸人としての力ではなく、コミニケーション能力の欠落が原因で、夢を断念することになる。ネタ作りに困ることはなかったが、相方との関係性作りには頭を悩ませた。まずは、人間関係の力を養わなければならない。どれくらいのレベルに達すれば、上達したと言えるのか。
幸か不幸か、僕にはわかりやすい指針がある。『45』と呼ばれたときは、人間関係で失敗をしたとき。『福田健悟』と呼ばれたときは、人間関係で成功をしたときだ。
早速、バイト先で試してみることにした。そう思った直後に、今まで働いていた本屋が閉店した。新しいバイト先には、スーパーを選んだ。スーパーなら、いろんな人と触れ合うことができる。面接には無事合格。青果部門に配属された。
開店前には、広告に掲載された商品を準備する。この日はカボチャが目玉商品だった。準備が終わって、カボチャコーナーの前で売り込みをスタート。
「いらっしゃい、いらっしゃい! 本日はカボチャがオススメでーす! どうぞー!」
「お兄さん! 私みたいなカボチャちょうだい」
ふと目をやると、声の先には大柄な女性が立っていた。私みたいなカボチャということは、大きなカボチャ? でも大きなカボチャを渡したら、僕の認識が彼女を大きな人だと言っているようなもの。
2択だ。Aは【大きなカボチャを渡す】。Bは【小さなカボチャを渡す】。
Aを選んだ場合は、彼女を傷つける可能性がある。Bを選んだ場合は、同じ値段で小さいほうを渡されたことに、憤りを感じる場合がある。ダメだ。考えても答えは出ない。半ば諦めの気持ちで、小さいカボチャを手渡した。
「ハハハ、上手ねぇ。お兄ちゃん! でも私はコッチのカボチャ貰ってくわね」
この選択は正しかったのだろうか。笑っていたが、心中は穏やかじゃなかった可能性もある。誰かに名前を呼んでもらわなければ、わからない。そうだ。制服についている名札を見ればいいんだ。
名札の名前は……『福田健悟』。セーフ。第1難関クリアだ。
なんだろう。変に肩に力が入っている。今のは、正解も間違いもないような気がする。もう少し楽に考えよう。カボチャは一玉で売っているものだけでなく、半分にカットされたカボチャも量り売りされていた。
広告を見た人たちが、次から次へと来店して、売り場のカボチャがなくなっていく。売り切れる前に、次のカボチャを用意して店に出す必要がある。僕は品出し担当だったため、作業をしているパートさんに、必要なカボチャの数を伝えた。その時、1人のパートさんが、落としたカボチャをそのままラップにくるんでいるのを目撃した。
「それ落としたやつ、ラップしたらダメじゃん」
「え、落としてないよ」
「いや見てたから! それは、捨てないと」
「ふぅん。落としてないんだけどなぁ」
「いや嘘ついてるじゃん! 怒られるのが怖くて嘘ついてるでしょ?」
パートさんは、渋々カボチャをゴミ箱に捨てた。こうして未然に悪事を防いだ。ところが、名札の名前は『45』になっていた。そんな馬鹿な。落としたカボチャをそのまま出して、食べた人が腹痛を起こしたほうが良かったのか? そんなはずはない。納得のいかないままバイトを終えて、家に帰った。
翌日。あれだけ昨日は正義感を振りかざしておいて、遅刻をしてしまった。事前に連絡を入れて、急いで向かった。5分ほど遅れて到着。
「すいませんでした!」
「あーあ。やっちゃったねぇ。福ちゃん」
あれ? 名前で呼ばれた。昨日は良いことをしたと思ったら番号で呼ばれて、今日は悪いことをしたと思ったら名前で呼ばれている。これはこれで混乱する。
「じゃあ罰としてジャイアントカプリコ買って」
助かった。ジャイアントカプリコで許してもらえるなら安いもんだ。そんなことより、早く準備をしないとダメだ。このあとは、遅刻を取り返すつもりで必死に働いた。昼休憩の時間になって、休憩室に向かっていると、後ろからチーフに声をかけられた。
「福ちゃーん。ジャイアントカプリコ買いに行こ」
冗談じゃなかったのか。てっきり、遅刻を許すための口実かと思っていたが、本当にジャイアントカプリコを買うことになった。
チーフの池本さんは、個性的な人。パートやアルバイトに指示を出すのは、池本さんの下についている川田くんという社員だ。この人は真面目な人だが、声が小さすぎて、何を言っているかわからない。聞き返すと機嫌が悪くなる。僕も含めて、パートさんたちも不満を抱いていた。
「ねぇ、ねぇ。福ちゃん。川田くんのこと好き?」
池本さんに聞かれた。
「嫌い?」
「そんな……めちゃめちゃストレートに聞くじゃないですか」
「嫌い?」
「まぁ……そうですね」
そこにたまたま川田くんが通りがかった。すると、池本さんは驚くべき行動に出た。
「あ、川田くん! 福ちゃんが川田くんのこと嫌いなんだって」
「な、何言ってるんですか! そんなわけないじゃないですか!」
「え〜、さっき言ってたじゃん」
「言ってないです、言ってないです」
なんなんだ。この人は。仲間割れをさせようとしているのか? そんなことをして、誰が得をするんだ? むしろ、自分の使っている部下の足並みが揃わなくなったら、1番困るのはチーフ自身だ。
川田くんが去ったあとで、池本さんと2人になったときに苦言を呈した。
「ダメじゃないですか。言ったら」
「え〜、だって本当のことじゃん」
どんな言い訳だ。それなら仕方がない、とでもなると思ったのだろうか。本当のことでも、言って良いことと悪いことがあるはずだ。その状況を見ていたパートさんが、声をかけてくれた。
「大丈夫だった? さっき池本さんに、川田くんのことバラされてたけど」
「あれはヒドいですよね。なんのためにバラしたんですかね」
「わかんないね。でも大丈夫でしょ。45は可愛がられてるから」
今『45』と呼ばれたのは、川田くんの悪口を言ったからか? いや違う。川田くんへの悪口を言った直後は、名前で呼ばれていた。それから、今この瞬間までに起きた出来事はなんだ? 先輩の池本さんを注意したことが、良くなかったのか。でも間違っているのは、池本さんだ。告げ口をすることは、正しい行為ではない。
昔の僕なら、上司だろうが関係なく、喧嘩をして辞めているだろう。そうしなかったのは、バイトを続けている僕を見て、両親が安堵の表情を浮かべていたからだ。この選択は間違っていなかった。ここで働き続けるなかで、その謎は解き明かされる。
「45」は、次回4/1(金)に更新予定です。お楽しみに!!
鑑別所を経験したお笑い芸人・福田健悟が壮絶半生を綴る小説「45」連載開始! | 「45」 | WANI BOOKS Newsクランチ!(ニュースクランチ!)
鑑別所にいた経験のある芸人・福田健悟が綴る、善と悪の定義が問われる自伝的ファンタジー小説。更生し、己の名前を取り戻すため、もがき苦しむ物語。








