更生施設にいた男が出所後も番号「45」で呼ばれる。己の名前を取り戻すには更生しなければならない。「更生」とは何か――名前を失った男が名前を取り戻すためにもがき苦しむ物語。お笑い芸人・福田健悟が綴る、善と悪の定義が問われる自伝的ファンタジー小説。今回は、この物語のプロローグ「#0」である。

日本刀やバットを持った20人に3人で立ち向かった

こんな小説も今の世の中に必要かもしれない。そう思ったのには理由がある。それは、この連載が始まるまでの経緯が、偶然の連続だったからだ。まず、今の僕はコンビニでバイトをしながら芸人をやっている。今から3年前。バイト先の後輩に、突然こう聞かれた。

「福田さんって、若い頃どんな感じだったんですか?」

僕は17歳の頃に、地元の岐阜県で最大の規模を持つギャングチームのリーダーをやっていた。このときに壮絶な体験をした。日本刀やバットを持った20人と、こちらはわずか3人で喧嘩をしたことがある。そして仲間の1人が、日本刀で切られて重症を負った。その報復をしたのが原因で、僕は鑑別所に入った。

▲当時の福田の写真。メンツのため、そして仲間のために体を張り続けた

バイト先の後輩は、その話を聞いて「詳しく知りたいから本にしてほしい」と言った。そう言われて遊び半分で書いていたのだが、書き終わるまでには1年の時を要した。すると書き終わったタイミングで、吉本興業から1通のメールが届いた。

『本を出版しませんか?』

このメールは、すべての若手芸人に送られた。吉本興業と、ベストセラー作家を生み出した編集者がコラボして、新たな才能を発掘するために企画されたオーディション。僕は迷わず参加した。一次審査通過。二次審査通過。そこからは最後の出版プレゼン大会に向けて、講習会でノウハウを学ぶ。この講習会で、こう言われた。

「自分のクズ時代とのギャップを書いてください」

この企画は、自分のために立ち上げられた企画なのではないか。そう思うほどだった。そもそも僕が本を読むようになったのは、鑑別所に入ってからだ。ひとつだけ気がかりだったのは、不良だった頃のエピソードを書いて「反省の色がない」という印象を与える可能性があること。そんな思いを抱えながらも、講習会に参加した。

会場に着くと席がひとつしか空いていなくて、隣にはスリムクラブの内間(政成)さんが座っていた。内間さんは連絡先を交換してくれて、僕のTwitterに載せていた小説にコメントまでしてくれた。

『今まで色んなことがあった。だから自分は、なかなか面白い人生を歩んでいると思っていたが、上には上がいた』

涙が出るほどうれしかった。今までなんの結果も出していなかった自分を、憧れの世界で活躍している大先輩が認めてくれた。これで迷いはなくなった。ここまで偶然が重なって、皆さんに知ってもらえるところまできた。この先も偶然が続いて、1人でも多くの人を笑顔にできると、僕は確信している。

「45」は、次回10/15(金)に更新予定です。お楽しみに!!


プロフィール
 
福田 健悟(ふくだ けんご)/吉本興業所属
平穏な家庭に育つも、高校生になり不良の道へ。地元、岐阜県で最大の規模を持つ不良チームのリーダーとなる。18歳の頃、他チームとの抗争が原因で留置所に2週間、鑑別所に2週間の計4週間を更生施設で過ごす。週に1回の入浴、美味しくないご飯、笑うことが許されない環境で生活をして当たり前の日常の大切さに気づく。そもそも子どもの頃になりたかったのは、お笑い芸人だった。周りにナメられるのが嫌で言い出せなかった。不良を演じて虚勢を張っていた。出所後は本当の自分になることを決意し、お笑い芸人を目指して上京する。わずか10万円を握りしめての東京生活。コンビニでアルバイトをしながらも舞台と日常を分けずに常に芸人としての自分を貫く。すると近所で評判のコンビニ店員になる。「あのお兄さん大好き」「接客のプロ」とたくさんの称賛をいただきながら実感する。人は変われる——。世間から忌み嫌われていた不良が世間から愛される人間に更生した。人生における全ての「負」から立ち直った経験を生かして、他人のありとあらゆる「負」も更生する。つまらない時間を面白い時間に「更生」するため、お笑い芸人として活動中。Twitter→福田健悟@ganeesha_fukuda