この子なら大丈夫! グッと近くなった翔吾との距離感

マナミの家の近くまで来たときに、飲み物を買うため、コンビニで降ろしてもらった。店から家までの道中で、なにやら騒ぎ声がする。声がするほうを見ると、公園で学生たちが揉めていた。ガラの悪い連中が6人。その6人と睨み合うような形で立っている1人は、真面目そうな雰囲気だ。彼は怪我をしている。よく見ると、怪我をしていたのは翔吾だった。

「誰がやったんだ?」

2~3人はヘラヘラ笑っている。残りはバツが悪そうだ。揃いも揃って、チャラチャラした格好をしている。対する翔吾は、砂まみれの体操着で、肘を擦りむいて血を流していた。

「聞いてんのか!!」

「行こうぜ」

リーダー格の男が声をかけると、残りの連中も彼のあとについて去って行った。翔吾は複雑な表情をしている。声をかけようとも思ったが、彼は僕に心を開いていない。何を言っても、返事はもらえないと思っていた。

「……ごめんなさい」

翔吾は目に涙を浮かべて、精一杯の言葉を放った。彼の服についてる砂を手で払った。この前は、服についていたゴミをとろうとしたら、避けられてしまったが、今回は動かなかった。学校でイジメられているのだろうか。余計なことを聞いて、傷つけてはいけない。でも、話を聞いてほしいと思っている可能性もある。どうしよう。どうしよう。と頭を悩ませた結果、やっぱり今の件には、触れないことにした。

男にとっては、弱い姿を見てほしくない時期がある。もし話したければ、自ずと話し始めるだろう。そう思った僕は、今日あったことや学生時代の話など、何気ない話をしていた。そのあいだの翔吾は、相槌を打っているだけ。なにか他のことを考えているようにも見えたが、気づかないフリをした。彼は不意に、僕の話に割って入った。

「あのさ。今日のこと内緒にしてくれる?」

「なんで?」

「心配かけたくないから」

「アイツらにまた同じ目に遭わされたらどうする?」

「また助けて」

安心した。素直な子だ。それに強い。自分のことよりも、他人のことを考えられる優しさがある。この子なら大丈夫だ。

「わかった。じゃあ、次なんかあったら俺に言うんだぞ? 番号交換しよ」

こうして、僕たちの距離感はグッと近くなった。家に着くまでのあいだに、好きな女の子の話や、好きなテレビの話で盛り上がった。こんなふうに話せる日が来るとは思わなかった。

「本当は僕、お笑いが大好きなんだよね」

「そうなんだ! 誰が好きなの?」

「誰がっていうのは特にないんだけど、漫才が好きなんだ。やってる?」

「あぁ、俺は相方と一緒に漫才やってるよ」

「へぇ。ちなみに一緒にやってるって言ったけど、相方さんと…えぇと…」

「なんでもいいよ。お母さんみたいに、健ちゃんって呼んでくれてもいいし」

「え!? …け、けん…ちゃん?」

「うん」

 「相方さんと……健ちゃんは、昔から友達だったの?」

翔吾は照れ臭そうに言った。このあとも、堰を切ったように質問は止まらなかった。今まで聞きたくても、聞けなかったことが聞けて、うれしそうだ。それにしても、質問が芸人志望の学生みたいだ。ひょっとしたら、彼の将来の夢は、芸人になることなのかもしれない。家の前に着いたら、翔吾は襟元を正すような仕草をして、玄関のドアを開けた。