父親の手術成功を祈る福田の「もう一つ」の願いとは?

残された最後のミッション――名前を取り戻せるか?
翌週。待ちに待った放送日。バイト前に寝ていて、起きたら自分の出演部分が始まったところだった。僕に与えられた時間は、スピーチの3分と、スピーチ後の3分。願いは1つだけ。スピーチ後に、共演者の井上咲楽さんから質問をしてもらって、笑いで返した部分をカットせずに使ってもらうこと。
自分なりの正当な理由はあったものの、客観的には井上さんの質問を、無視しているようにも見える発言だった。番組の邪魔をしてまで、自分をアピールしたいとは思わないが、笑いをとることが芸人の仕事。1つも笑いをとらずに、収録を終えるのは、職務放棄だ。3回のうち、2回の質問には、普通に答えた。
最後の咲楽さんの質問に、笑いで返した部分は……放送されていた。あとは見ていた人が、どう思うかだ。番組が終わると、数人から連絡がきた。
「おもしろかったよ」
「スターの仲間入りだね」
「最高だったよ」
この言葉たちが満たしてくれるのに比例して、今日の出来を自問自答する行為から遠ざかった。これからどうなるだろう。街で声をかけられるのだろうか。いや有り得ない。1回テレビに出ただけだ。そんなことあるはずがない。調子に乗って、天狗になったら何もかも失う。ここは冷静に努めよう。あらかじめ買っておいたハンバーグドリアを食べて、バイト先に向かった。
「どうだった?」
「いや〜なんか自分をテレビで見るって変な感じですね」
この日の休憩中は、1日中テレビの話題で盛り上がった。みんなが褒めてくれて、調子に乗りそうだったが、自分を律することに努めた。何を言われても謙遜をしている僕に対して、周りは違和感を持った表情をしていた。それもそのはず。あんなに憧れていたテレビの世界に入ったのに、本人が浮かない表情をしている。喜びをあらわにしないほうが不自然だ。
今日くらいは、調子に乗ってもいいのかもしれない。そう思って、素直に激励を受け入れた。そんな僕を見て、みんなもうれしそうだった。バイトが終わって家に帰ると、吉本の社員からメールが来た。
『昨日のテレビを見た業界関係者から、次の仕事の依頼が来ています』
こうして、1つの仕事が次の仕事へ。その仕事がまた次の仕事へとつながっていった。コンビでネタ番組に出ることも増えて、ネタ切れになりそうになることもあったが、大志にアドバイスをもらって乗り切った。その繰り返しで、少しずつバイトと芸人の収入が、逆になっていった。今までは週6でやっていたバイトも、週5になり、週4になり、最終的には余裕があるときだけ働くようになった。
「すいません。ご迷惑おかけします」
「全然いいよ。お前の本業は芸人なんだから」
平気なフリをしてくれているのは、手にとるようにわかる。コンビニは24時間経営で、1人でも欠けると店が回らない。その場合は、店長がシフトを埋めることになる。週6でシフトに入っていた人間の代わりは、簡単に見つからない。
それでも協力してくれる仲間たちは、何人かいた。彼らも同じように、自分に予定があるときは、誰かに助けを求めた。助けてくれた人には、感謝の気持ちとして、飲み物を買って渡す。そうやって、みんなで助け合っているのを見て、羨ましかった。僕だけはシフトを代わってもらっても、何も買うことができていなかった。常に借金があるマイナスの状態で、見栄を張ることができなかったのだ。
でも、テレビの収入が振り込まれるようになってからは、借金もなくなって、みんなと同じように感謝を形で表すことができた。マナミや翔吾と一緒に暮らすために、新しい部屋も借りた。今まで迷惑をかけてきた父や母にも、恩返しの気持ちを届けることができた。あとは、名前を取り戻すだけだ。こういう節目になると、必ず現れる男がいる。野口徹郎だ。この予想は的中した。
「福田さん。おめでとうございます。ついに明日を乗り切れば、永久に名前を取り戻せます」
「45」は、次回8/12(金)に更新予定です。お楽しみに!!
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