和歌山県橋本市の高台に位置する「TSUTSUGO SPORTS ACADEMY」。2025年12月、冬の澄んだ空気のなか、この地で「スポーツの垣根を超える」という言葉を体現する、熱気あふれる試みが行われた 。

今回、筆者が訪れたのは「2025 TSUTSUGO SPORTS ACADEMY FESTIVAL × RIKUJO JAPAN」だ 。昨年に続き2回目となるこのイベントは、筒香嘉智選手が私費を投じて建設したこの施設を舞台に、日本陸上競技連盟(日本陸連)のプロジェクト「RIKUJO JAPAN」と共催する形で開催された 。

野球と陸上。一見すると異なる競技が、なぜ和歌山の地で手を取り合うのか。そこには、子どもたちの未来を見据えた、筒香兄弟の深い信念があった。

▲イベントに参加した子どもたちと記念撮影

日本のトップアスリートが顔を揃えた

午前10時、グラウンドには同施設を本拠地とする野球チーム「Atta Boys(アラボーイズ)」に所属する小学生や地元・橋本市内の児童ら72名が集まった 。彼らの前に並んだのは、日本を代表する「陸上のプロ」たち。

講師陣には、ロンドン五輪男子4×100mリレー日本代表の九鬼巧さん、東京・リオ五輪男子走高跳日本代表の衛藤昂選手、そしてリオ五輪男子やり投げ日本代表で日本歴代3位の記録を持つ新井涼平さんという、文字通りのトップアスリートが顔を揃えた。

イベントのコンセプトは、陸上の基本動作である「走る・跳ぶ・投げる」を通じて、スポーツの楽しさを伝え、身体の使い方をプロから教わるというものである 。子どもたちは3つのグループに分かれ、30分ごとに各講師から「走り方」「跳び方」「投げ方」の極意を直接教わっていく。

そこに、地元・橋本市出身の筒香嘉智選手をはじめとするプロ野球選手たち5名も加わった 。野球界の第一線で活躍するプロ選手たちが、子どもたちと一緒に陸上競技の基礎を学び、汗を流す。その光景自体が、既存の「部活動」や「競技」の枠組みを軽々と飛び越えているように感じられた。

▲準備運動で体をほぐす

陸上で培われる身体の使い方はスポーツの土台になる

なぜ、野球アカデミーがここまで陸上に重きを置くのか。その背景には、筒香選手の兄であり、筒香青少年育成スポーツ財団の代表理事を務める筒香裕史さんの強い思いがある。

裕史さんは、「マザー・オブ・スポーツ」と称される陸上を学ぶ意義をこう語る。

「走る、跳ぶ、投げるという運動の基本を学び、それを野球に活かしてもいいし、やはりこちらの方が向いているかもと他の競技に転向してもいい」

陸上で培われる身体の使い方は、あらゆるスポーツの土台となる。裕史さんは、野球という特定の競技に特化する前に、まず自分の身体を自在に操る楽しさと能力を身につけてほしいと考えている。陸上の基本動作を軸に身体の使い方を理解することが、将来的に他のスポーツを選んだ際にも、あるいは野球を続ける際にも、大きな可能性を広げる未来を描いているのだ。

この考えは、陸上を通じてスポーツ界や日本全体を変えていこうとする「RIKUJO JAPAN」のコンセプトと合致したものである。