ゲスト講師から大きな刺激を受けた筒香嘉智
イベント終了後、このプロジェクトを共催し、自らも参加した筒香嘉智選手に話を聞くことができた。彼は、第一線で戦い続けるプロのアスリートとしての視点から、今回の交流の意義を噛み締めるように語った。
「子どもたちが、このような非常にレベルの高い指導を受ける機会は本当に数少ない。彼らにとって、非常にいい時間になったのではないかと感じました」
筒香選手自身、ゲスト講師たちの指導から大きな刺激を受けたという。
「僕自身も現役でやっているなかで、身体の使い方、投げる・跳ぶ・走るというのは、一番基本になる部分。基本なのですが、非常に難しく、奥が深いものだと改めて思いました。僕自身ももっと理解を深めて、自分の競技(野球)につなげていきたい。野球が上手くなるには、野球だけやっていても上手くならない、と僕は思っています」
プロ野球選手という立場でありながら、他の競技から学ぼうとする謙虚な姿勢。自身も幼少期から体操などに取り組む環境にあった筒香選手にとっては、野球以外のスポーツにも触れ、それを野球に活かしていくのは自然なことなのかもしれない。
今回の陸上体験を有意義に感じたのは筒香選手だけではない。他にも神里和毅選手、太田光選手、林晃汰選手、植田将太選手と4名のプロ野球選手が参加し、一様に各講師陣の教えを反復練習。なかでも和歌山県出身の林選手は、同じく和歌山県出身の九鬼さんに熱心に教えを請い、自身の走り方の改善に余念がなかった。
スポーツ界の垣根を越えて交流を
もうひとつ印象的だったのは、子どもたちと筒香選手との距離感だ。
「(子どもたちは)もう友達みたいな感覚で接してくれます。僕自身も非常にやりやすいですし、入り込みやすいですね」
笑顔でそう語る筒香選手に対する子どもたちの反応は、遠いプロ野球選手ではなく近所のお兄さんそのもの。しかし、近しい存在であっても子どもたちの憧れの存在だ。スター選手が自分たちと同じトレーニングを受け、新しいことに挑戦している。その姿を見ることが、子どもたちにとっては何よりの教えになっているはずだ。
かつての日本では「野球だけ」「陸上だけ」といった、ひとつの競技に打ち込むことが当たり前だった。しかし、ここ橋本の地では、競技の垣根はすでに消えつつある。
「以前はひとつの競技だけに専念する子どもが多かったが、今はそうではなくなってきている。いろんな競技の特性や学ぶものを、自分の競技に生かせる要素は多くある。スポーツ界の垣根を越えて、もっと全国的に色んな世代での交流があれば、より良いスポーツ界になっていくのではないか」
筒香選手が語ったこの言葉こそが、このイベント、そしてTSUTSUGO SPORTS ACADEMYが目指す地平そのものだろう。
イベントの最後、子どもたちがそれぞれの種目を自由に計測する時間があった。さきほど教わったばかりの「走り方」や「投げ方」を、さっそく試そうと駆け出す背中。その姿は、特定の競技の選手というよりも、身体を動かすことそのものを楽しむ「一人の自由なアスリート」に見えた。
和歌山の地で2年目となる「野球×陸上」の試み。ここがモデルケースとなり、日本のアマチュアスポーツ界に新しい風が吹き抜ける日は、そう遠くないかもしれない。
(取材:Felix)


Newsクランチ編集部