社会の闇と呼ばれるアンダーグラウンドを25年以上も取材し続けてきた作家・村田らむ。しかし、彼が最も恐怖を感じたのは、人の狂気が露わになる瞬間だった…。人の内側に潜む醜い本性を描く、思わず背筋が凍る人怖体験談をお届けする。
※本記事は、村田らむ:著『人怖3 人を狂気で染める日常の狂乱』(竹書房:刊)より一部を抜粋編集したものです。
事務所に広がっていた異様な光景
かつて、繁華街のバーで働いていたという40代の男性に話を伺った。
知り合いに誘われて、バーで働くことになりました。
何か楽しいことがあったり出会いがあったりしたらいいな、というような軽い気持ちだったんです。

働いてみると、もちろん楽しいこともあったのですが、そこの経営者の社長はかなり荒っぽい人でした。
そしてバー以外にも、ライブハウスなど複数の店舗を経営している人でした。
たまに社長の事務所に呼ばれるのですが、そこの内装は〝ヤクザの事務所〟丸出しではないものの、異様な光景が広がっていました。
高そうな壺が並んでいたり、異国の神様の像が飾ってあったり、熊の剥製が牙を剥いていたり……。そして高そうな革張りのソファー。そこに座っているだけで、ツっと冷や汗が出るような思いでした。

そして事務所には、あからさまに暴力団員のような見た目の人が出入りしていました。一度、『あの人達は、どういう関係なのですか?』と聞いてみたことがあります。
「あいつらは俺のファンだ」
それ以上の説明はなく、僕もそれ以上聞くことはできませんでした。
部下がミスをすると遠慮なく怒鳴る人で、僕の前でも人を大声で罵倒するし、たまに手を出していることもありました。
僕はアルバイトだったので、そこまで怒られることはありませんでしたが、それでもたまに怒られると、殴られるのではないかとヒヤヒヤしたのを覚えています。
バイトを辞める決意をした“社長の一言”
ある日事務所に行くと、社長はいつもにもまして怒っていました。顔は真っ赤で、鬼のようでした。取引先の会社の人物が逆らってきたようでした。
社長は、電話を叩きつけるように切ると、
「あのガキ!! 人も殺したことがないくせに生意気なことを言いやがって!!」
捨て台詞を吐いて、部屋から飛び出して行きました。
人も殺したことがないくせに……。
その言葉を聞いたあと、僕はバイトを辞めました。