社会の闇と呼ばれるアンダーグラウンドを25年以上も取材し続けてきた作家・村田らむ。しかし、彼が最も恐怖を感じたのは、人の狂気が露わになる瞬間だった…。人の内側に潜む醜い本性を描く、思わず背筋が凍る人怖体験談をお届けする。

※本記事は、村田らむ:著『人怖3 人を狂気で染める日常の狂乱』(竹書房:刊)より一部を抜粋編集したものです。

「ここらへんで女性を見ませんでしたか?」

30代の女性から聞いた。

友達に心霊スポット巡りを趣味にしてる子がいます。肝試し的な感じで、仲間同士で廃神社とかいわくつきのダムとかいろいろな場所に行ってるみたいで。

ある日、霊が出るって有名な山に登ったそうです。ただ、雰囲気はあったものの特に何も起こらず、

「結局、何もなかったね」

って少しがっかりしながら車で下山しました。

 

車でまったく明かりのない山道を走っていると、急に目の前に女性が現れました。慌てて急ブレーキを踏み、女性の前でなんとか止まると、その女性は悪びれもせず車のほうをジロッと見たそうです。

その様子は普通ではなく、服ははだけて半裸、髪の毛は長くてぼさぼさ、そして近寄ってきてボンネットをバンバンと叩いてきました。

ついに幽霊に出会ってしまったと思った彼らは、慌てて車を発進し、振り払うように逃げました。そのまま大きな通りに出たときに、少し人心地ついてみんなで、

「やっぱり出たね」

「こっわ、出るんやなあ」

と話していました。

すると対向車に大型のトラックが現れて、パパッとクラクションを鳴らして止まりました。

トラックの運転席から男性が、

「ここらへんで女性を見ませんでしたか?」

と聞いてきました。

 

「ああ、見ました! 見ました!」

さっきの女性は人間だったんだ。そりゃそうか。あんなハッキリとした幽霊はいないか。そう思いながら、女性と出会った場所を運転手に詳しく教えました。

たぶん女性は道に迷っていたんだ。

それを振り払ってきてしまって悪いことをしたな。

反省しながら、皆で帰路についたそうです。

殺されていたのは自分だったかもしれない…

数日後、メンバーのひとりがニュースを見つけてきました。女性の死体が発見された記事で、容疑者は彼女たちが道を教えたトラック運転手だったそうです。

「私たちが道を教えたから、あの女性は殺されちゃったのかもしれないんだよね」

友達は鬱々とした表情でした。

しかし、教えなければ私たちが殺されていたかもしれない、そう思ったときに寒気が全身を包みましたが、私はただ黙って友達の話を聞いていました。