中高年男性を虜にする19歳女優・森七菜さんの魔性――。そんな記事が先週、ネットで話題になっていた。著者はスージー鈴木氏。

よくぞ口火を切ってくれた。同じく森七菜の沼にどっぷりハマる中高年男性として、追随せずにいられない。世界で一番深い海はマリワナ海溝だが、世界で一番深い沼はモリナナ海溝であるという持論のもと、女優・森七菜について語りたい。

考察1:森七菜を少女として見つめる男性の目線

まず森七菜が、これまで演じてきた役柄を並べると、大きく分けて2つのタイプがある。

ひとつは、ファンタジーの中に生息しているかのような少女、妹の役。代表的なのは映画『ラストレター』や『天気の子』。 

もうひとつはクラスの中で浮いてしまい、いじめられる女子高校生の役。ドラマ『やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる』など、特に同性の女性から攻撃を受ける役が多い。

岩井俊二監督の映画『ラストレター』は、中高年男性が森七菜に注ぐ目線を凝縮して浄化したかのような作品だった。松たか子の少女時代を演じた森七菜と、姉である広瀬すずの2ショットは、男たちが妄想するファンタジーの世界にしかありえない透明感をまとっていた。

映画の中に、森七菜と広瀬すずがノースリーブの白いワンピースを着て、緑の木々を背景に、傘をさして立っているシーンがあった。

「こんな美少女姉妹いねえよ」のはるか上をいく「こんなノースリーブの白いワンピースを着て、肩を出した美少女姉妹いねえよ」という、青春の理想郷の映像化。しかも、森七菜の髪型は妹キャラの象徴ツインテール!

ああ、そうか、この光景はトトロと同じ夢まぼろしの世界なんだ、だから傘をさしてトトロとサツキみたいに並んで立っているのか、と納得したものである。

この作品や『天気の子』に象徴される“ファンタジー少女としての森七菜”は、男たちの青春の記憶や、美化された過去を投影する依り代(よりしろ)として機能する。

だから若い世代のみならず、おっさん世代の郷愁をも誘う。これが森七菜に注がれる視線その1である。私はこれを青春の残尿感と名付けている。

付け加えるならば「オロナミンC」のCMも、あれは本来、おっさんのための飲み物であり、若い世代が飲むものではない。男子が部活動の合間に飲むには量が少なすぎる。なぜ中高年需要がメインの、元気になるためのドリンクに森七菜が起用されるのか。この考察は自粛しておこう。

考察2:森七菜に小悪魔的な「女」を見る女性の目線

森七菜が演じてきた役柄で次に多いのは、クラスで浮いてしまい、同性にいじめられる女子高校生の役である。

NHKのドラマ『やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる』や、WOWOWのドラマ『イアリー 見えない顔』、映画『地獄少女』がこれにあたる。実質のデビュー作であるネットドラマ『東京ヴァンパイアホテル』も、ヴァンパイアの女たちの標的にされる人間の少女の役だった。

もちろん、これは役柄の話であって、森七菜自身に結びつけて考えるべきではないのかも知れない。しかし今年、知名度が急上昇したことによって、一部女性層から辛辣な森七菜バッシングが起こったことと重ね合わせると、とても興味深い。彼女には同性の敵意を誘発する資質が、どこかにあるらしい。

それはおそらく、天真爛漫ゆえに無自覚なまま、男ごころをかき乱し、振り回す小悪魔的な魅力であり、女性たちは嗅覚によってそれを感じ取り、危険人物と見なしている。これが森七菜に注がれる視線その2である。

男性が、森七菜を「少女」や「妹」として見つめる&見つめたいのに対して、女性は森七菜に潜む「女」としての危険なポテンシャルを感じ取る。

極論を承知でストレートに書けば、この違いだ。

12月22日に最終回を迎えるTBS系の話題のドラマ『この恋あたためますか』。このドラマを視聴しながら気付いたことがある。担当する演出家によって、森七菜の表情のとらえ方や、恋愛パートの間合いが微妙に違うのである。

具体的に言うと、第4話と第9話の森七菜はバカみたいにかわいかった。いや、毎回アホみたいにかわいいのだけれど、この2回は上目遣いの多さや、唇を噛む仕草など、小悪魔光線を振りまくキュートさと、恋愛パートでのドキっとする表情をとらえたショットが際立っていた。

第4話とは、ラストに仲野太賀のサプライズ・キスがあった回。第9話とは12月15日に放送されたばかりの、中村倫也との漫才のような焼肉シーンや ラストの告白があった回である。

このドラマは、TBS関連会社の4人のディレクターが交代で演出を担当しており、調べてみたら第4話と第9話の演出は大内舞子さん。唯一の女性ディレクターと知った。こじつけや先入観じゃなくて、本当に調べてからわかった。

ああ、なるほど、これが女性の目線で引き出される森七菜の、危険で高度なかわいさなのか! そんな感想も記しておこう。中村倫也のシートベルト・キス未遂から、自宅に帰った後、ほてった頬を押さえる森七菜の引きのショットも印象的だった。