「定年後は筋力トレーニングのはじめどき」長年不摂生な生活を続けてきたサラリーマンが、身体のことを考えて定年退職後にウォーキングを始めるのはいいことですが、ウォーキングでは「何もやらないよりはマシ」という程度。

であれば、いっその事衰えかけた身体に喝を入れ、定年筋トレをオススメします!筋トレを始めれば体内にさまざまな好循環が起こる、と語るのは京都大学名誉教授で、日本のスポーツ医学の権威である森谷敏夫氏。

「いきなりハードな筋トレを始めても大丈夫なのか?」「こんな体じゃ長続きする気がしない…」など、の声が聞こえてきそうですが…森谷氏が筋トレを安心して効率よく、そして効果的に持続できる基礎知識をお教えします!

※本記事は、森谷敏夫・吉田直人:著『定年筋トレ 筋肉を鍛えれば脳も血管もよみがえる』(ワニ・プラス:刊行)より一部抜粋編集したものです。

頑張りすぎなければ血圧高めでも大丈夫

定年後の60代ともなるとやはり体にガタが出てきます。

血圧や血糖値が高めな人も少なくないでしょう。

「筋トレは血圧が上がりそうだし、やっても大丈夫なの?」と心配する人もいると思います。

確かに上がります。

だから、血圧の数値がすでにレッドラインに達している人は、避けた方がいい。医者からもそう言われるはずです。

しかし「ちょっと血圧が高め」というレベルの人なら、そう心配することはありません。

たとえば重いダンベルを2秒上げて2秒下ろすという動作の間にリラックスする時間があれば、医学的には問題ないと考えられています。

リラックスする時間を入れれば、血圧が上がりっ放しになることはないのです。

よくないのは力を入れる時間が長くなってしまうこと。

現在の自分の筋力の100%近い負荷をかけようとすると、どうしても動作が遅くなり、長い時間力を入れてしまいます。

そうした頑張り過ぎの筋トレは危険と言えます。

▲高血圧でもそれに合わせたトレーニング方法をとればOK イメージ:foly / PIXTA

正しい呼吸法を心がける

呼吸を止めないことも非常に大事です。強い負荷をかけた場合、歯を食いしばり、呼吸を止めがちになる。息を止めることで酸欠状態が起こり、血圧が急上昇してしまうのです。

筋トレは基本的に「力を入れる時に息を吐き、抜く時に息を吸う」が原則です。もっと正確に表現すると「筋肉が収縮する(力を込める)時に息を吐き」、「筋肉が伸長する時(力が軽くて済む)時に息を吸う」になります。

・腕立て伏せは、体を腕で上げる時に吐き、下げる時に吸う

・腹筋では体を起こしていく時に吐き、下ろす時に吸う

・スクワットは腰を落としていく時に吸い、体を上げて元の姿勢に戻る時に吐く

ということになります。また、動作と動作の間に静止している時も、息は止めず、自然な呼吸を続けるようにします。

ジムでのウェイトトレーニングでも、これは同じです。これは血圧高めの人も正常値の人も、プロアスリートもまったく同じこと。

筋トレを始める時は、この「吸う、吐く」のタイミングを意識し「力を入れる時に息を吐く、抜く時に息を吸う」という感覚を体に覚えさせることが大切です。

「どっちで吐くんだっけ? 吸うんだっけ?」と混乱しそうになったら、両方を意識せず、「吐く」だけに集中してください。

「力を入れる時に息を吐く」と意識して動作を行えば、「吸う」ほうはごく自然に肺に空気が入ってきます。

とはいえ、慣れていない時は力を入れる時につい息を止めてしまいます。それで息苦しさを感じた時は、目標の回数に達していなくても、トレーニングを中断してひと休みしましょう。

▲呼吸のタイミングを覚える イメージ:プラナ / PIXTA

また、筋トレを始める前に水分を補給しておくことも大切です。

血液が流れにくい状態であることも血圧を上げる要因です。筋トレのベテランになるとジムでトレーニングする時、常に水を入れたボトルをかたわらに置いて、水分補給をしているものです。

正しい呼吸法を覚え、そうした心がけをしていれば、筋トレによる血圧上昇を心配しすぎることはありません。

それどころか、筋トレには続けることで血圧を下げる効果があることもわかっています。

筋トレによって筋肉量が増えると血流がよくなるのです。

筋トレ中、血圧は上がるけれども、安静時にはその効果によって、血圧が高くなりにくい体になるわけです。