それでも通らない場合がある

このように「最強の離婚原因」と言える3年間の別居ですが、3年間別居をしても離婚請求が認められない場合があります。離婚を請求する側に不貞などの婚姻破綻の原因がある場合を、一般に、有責配偶者からの離婚請求と言っています。

このような場合には、3年間別居をしても離婚請求が認められず、より長期の別居期間やその他の要件を満たすことが必要になります。

離婚を考えている方にくれぐれも注意していただきたいのは、離婚が成立するまでは、別の男性と関係を持たないようにしていただきたいということです。前述のように、破綻後に第三者と性的関係を持っても不貞行為には当たらないのですが、破綻しているかどうかという点がしばしば争点となり、それが証明できないと有責配偶者という認定をされる恐れがあります。

確実に破綻しているという証拠がない場合には、実際に破綻をしていても、注意したほうが良いかと思います。

ところで、現在は有責配偶者であっても長期の別居等の事情があれば、離婚請求ができますが、かつて最高裁は、有責配偶者からの離婚請求を認めませんでした。最高裁昭和27年2月19日判決は、「もしかかる請求が是認されるならば、妻は俗にいう踏んだり蹴ったりである。法はかくの如き不徳義勝手気儘を許すものではない」としていたのです。この判決は「踏んだり蹴ったり判決」として有名です。

しかし、最高裁昭和62年9月2日判決は、この判例を変更し、有責配偶者からの離婚請求も認められる場合があるとしました。この可否の判断要素とされるのが、以下の3つです。

A・別居期間が両当事者の年齢および同居期間との対比において相当の長期間に及ぶこと
B・未成熟の子が存在しないこと
C・相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的にきわめて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情が認められないこと

まず、Aについては、同居期間の長さにもより、10年以上だと長期と認められる傾向があり、一応10年くらいが一つの目安とされてきましたが、最高裁平成2年11月8日判決は、数量的なことだけでなく、時の経過が諸事情に与える影響も考慮すべきとして、別居期間約8年での離婚請求を認めています。

下級審では、相手方にも問題があったとされたケースで、6年未満で認めたというものもあります。

Bの未成熟の子については、独立して生計を立てられるような年齢に立っているかどうかが問題になり、大学生は未成年者であってもこれに当たらないとされたケースがあります。また、未成熟の子がいるからといって、絶対に離婚請求が認められないということではないようで、離婚請求を認めても実質的な父子関係を維持していくことが可能などとして、離婚請求が認められたケースもあります。

Cについては、経済的な事情が重視されます。ただ、これまで生活費を払ってきていなかったからとか離婚給付の申出の内容が十分でないとかで棄却するというより、判決での慰謝料額や財産分与額などによって調整が図られるとされます。

長期の別居なしでも、離婚請求が認められる場合

このように有責配偶者からの離婚請求については、さらに長期の別居などが必要になります。ところが、これには例外となりうる場合があります。

それは、不貞行為を行ったものの、相手がいったんこれを許し、平穏に夫婦関係が再開され、その後に、かつて不貞をした側が離婚を求めた場合です。

これについては、東京高裁平成4年12月24日判決が以下の判断をしています。「相手方配偶者が右不貞行為を宥恕(ゆうじょ)したときは、その不貞行為を理由に有責性を主張することは宥恕と矛盾し、信義則上許されないというべきであり、裁判所も有責配偶者からの請求とすることはできないものと解すべきである」

宥恕とは許すという意味です。いったん許しながら後から有責性を主張するのは矛盾しているから、もはや有責配偶者には当たらないとしたのです。不貞行為を行ってしまった場合でも、いったん許されれば、有責配偶者には当たらないとされる可能性があるわけです。