10年前は勝敗優先ではなく戸惑うこともあった
今年9月に開催されたFIBAバスケットボールワールドカップ、男子日本代表の躍進は記憶に新しいが、ファジーカスが来日した当時の日本バスケット界は、混乱の渦中にあった。
国内に2つのリーグが並立する異例の状況をFIBAは問題視。日本バスケットボール協会(JBA)は会員資格の停止を言い渡され、一時は日本代表が国際試合に出場できない状況も経験した。その後、さまざまな紆余曲折を経て、2016年にはBリーグを設立。東芝は川崎ブレイブサンダースと名称を変え、プロチームとしての歴史を歩み始める。
日本バスケットボールリーグでの活躍を経て、Bリーグ初年度に得点王とシーズンMVP(※NBL時代を含めると2度目)を獲得するなど、日本バスケット界の飛躍をコート内で感じ取ってきたレジェンドが当時を語る。
「日本人だけではなく、レベルの高い外国籍選手がBリーグでプレーするようになって、かつてとは比べようもないくらいに競技のレベルが上がった。みんながプロの選手になり、競技成績が生活に直結するようになったことが影響しているんじゃないかな?
僕が加入した頃は、まだ実業団のチームで、チーム内のプロ選手は外国籍の選手数人だけ。毎日の練習は、日本人選手が仕事を終えたあとからだし、大切な試合がある数日前なのに部署の飲み会に参加しないといけない選手がいたり、必ずしも勝利が優先されるわけではなくて、時に戸惑いや不安を感じたこともあったよ。
でも、プロ選手になった途端に、みんなの意識が変わったような気がする。バスケットが仕事に変わったことで、日頃の練習やトレーニングに真摯に向き合う選手たちの姿を見る場面も増えた」と、自身が感じた日本バスケット界の凄まじく驚異的な変化を口にする。
『NICK THE LAST』に向けて
2024年のパリオリンピックなどでも、バスケットボールが多くの人々を魅了し、将来の日本バスケット界を担うことになる子どもたちの心を震わしながら、変化の波は加速していくことになるだろう。
「バスケットボールで一番大切なのは、基礎の技術を大切に磨きつつも、心から楽しんでプレーをすること。あとは昔から言われていることだけれど、練習すればするだけ完璧に近づけるから、練習を積み重ねることが大切です」
後進に向けてエールを送るレジェンドの引退に花を添えるべく、今季の川崎は『NICK THE LAST』を掲げてさまざまな企画やグッズを展開している。一番のお気に入りは、未来を見据えているような表情が印象的な写真入りのTシャツらしい。
「僕自身が遠い未来を見ているような素晴らしい写真や、『NICK THE LAST』というテーマを気に入っていて。僕の引退を盛り上げようとしてくれているチームに感謝してるし、その気持ちに応えるような特別なシーズンにしたい」
チームに関わるさまざまな人々の思いを背負ってプレーする彼が、最終年に懸ける意欲はこれまでになく高い。
「ファンの皆さんには楽しみながら見てほしいと思いますし、僕自身もそれを体現しようと思っています。終わりは悲しいですけど、全ての最後ではありません。12年間の感謝の気持ちを伝えるためにも、しっかりと結果を残さなければならないと思います。
僕は今シーズンでチームを離れることになったけれど、決してチームと縁を切るわけではないから、また何かしらの形で川崎ブレイブサンダースの一員になれたらなと思っているよ」
バスケット界が盛り上がりを見せるなか、歓喜のラストシーンに向けて走り続けるレジェンドの最後の勇姿に注目したい。
(取材:白鳥 純一)
〇川崎ブレイブサンダース公式サイト