消費税は間接税であるという大前提が崩れた
消費税が導入された1989年に存在していた「サラリーマン新党」という政党が、政府を相手に裁判を起こしたことがあります。「消費税は消費者が負担する税金なのに、年商が一定額以下の事業者が免税となるのは、預かり金をピンハネする行為(益税)だ」と訴えたのです。
判決は1990年3月26日には東京地裁で、同11月26日に大阪地裁でそれぞれ出されました。判決はいずれも原告の敗訴で、免税は益税(ピンハネ)ではない、というものでした。この裁判における大蔵省(当時)の反論が驚きで、消費者が負担する消費税は「物価の一部に過ぎない」というのです。
物価というものは、最終的には市場における需給で決まるものだから、消費税は個別の物品に課せられているものではなく、事業者が一年間に作り出した付加価値に一定の税率をかけて払うものである。そうなると、消費税は事業者の観点からは、実質的に直接税ということになります。
直接税であれば、たとえば所得税でも、年間の収入がこの額までは無税という、免税点というものがありますから、小規模事業者に対する免税は預かり金のピンハネにはあたらない、というのが大蔵省の主張を汲んだ判決の主文でした。ここで、消費税は間接税であるという大前提が崩れたわけですが、付加価値に課税するとはどういう意味でしょう?
もともと日本の消費税は、欧州の「付加価値税(VAT:Value-added tax)」を下敷きとして作られた税制なのですが、付加価値とはなんでしょうか。一般的な感覚で考えると、たとえば木材を買って、それを加工して美術品とか道具にすれば付加価値を加えたことになります。木材を1000円で仕入れ、それを美術品にして5000円で売った場合、4000円の付加価値を創造したことになるわけです。
ところが、消費税の課税対象である付加価値とは、「利益と人件費の合計」だというのです。人件費というのは会計学的には経費(固定費)です。
ちなみに法人税は、粗利(売上総利益)から人件費を含む全ての経費を引き去って、もし利益が残ったら、その利益に対して課せられるものです。従って、赤字であれば、当然ながら法人税は払わなくて済みます。
しかし、消費税の場合、利益と人件費の合計に課税するということは、法人がたとえ赤字でも払わなくてはならないということになります。たとえ赤字の事業者であっても、消費税率が上がるほど税負担が増えるということで、ひじょうに過酷な税金だということになります。
輸出戻し税に溺れた経団連の詐術
消費税は、実際に正しく社会保障目的税として使われているのでしょうか? 調べてみると奇妙なことに、消費税によって得られた税収とほぼ同じくらいの規模で、法人税が減額されているのです。
もう一つ、「輸出戻し税」に関しても疑問があります。海外の消費者に日本の消費税を払ってもらうわけにいかないので、輸出品に対しては消費税を課税しないというのが国際ルールなのですが、輸出業者は、自分が仕入れる際には消費税を払っているので、その分が「損」になってしまいます。
その税負担分を税務署が輸出業者に還付する仕組みを、俗に「輸出戻し税」と言います。
輸出戻し税は、輸出大企業にとっては巨額なものになります。この輸出戻し税が、実質的な輸出補助金になっています。
また、全てとは言いませんが、規模の大きい企業が取引先の下請けなどから仕入れをする際、「消費税の一部をディスカウントしてよ」なとど単価を買い叩くケースがあり、そうしたケースでは「実際は負担していない消費税分」も含めて、戻し税によって補助されていることになります。消費税率が高くなればなるほど、大企業にとっては有利になるわけです。
一方、実質的な税金とも言える社会保険料は、国会で具体的な議論もされないまま、毎年確実に上がり、国民負担率も上昇する一途です。そもそも、日本の消費税は社会保障目的税として、4つの目的(1.年金 2.医療 3.介護 4.少子化対策)にしか使わないとされていますが、税の使用先を決めている国は、日本以外にはありません。
年金・医療・介護は、保険制度として賄うべきであって、収入が大きく変動する税によって運営されるべきではないからです。
経団連は常々、消費税アップを推す意思表示をします。早く19%まで上げたらいいのに……などとまで言います。マクロ経済学的な理論から言っても、実際に何度も景気の腰折れという痛い目に遭った経験則から言っても、消費税増税は景気を悪化させることがわかりきっているのに、なぜ、経団連がそれを容認するどころか、わざわざ望むのか。理由は先述のとおりです。