誰が見ても“鈴木セイゴの絵”を開発してきた

今でこそ浮世絵風のイラストで注目を集めるセイゴさんだが、当初はさまざまな画風のイラストを上げていた。

「いろんな絵を描きたくて描いていたわけじゃなくて、世界で通じる自分だけのスタイル、“鈴木セイゴの絵”を開発したかったんです。それだけを目的に、ひたすらいろんなスタイルの絵を描いて模索していました。

線については、細い線でタッチをつけずに、均等な線で絵を描く漫画家さんに憧れたんです。『ONE PIECE』(集英社)の尾田栄一郎さんや、『王ドロボウJING』(講談社)を描いていた熊倉裕一さんとか。自分の感覚とか感性にすごく刺さりました。それを自分でマネしだしたんです。

色塗りについては、デジタルイラストで流行っている方法ができなかったんです。何回も挑戦したんですけど、自分はデジタルイラストの色塗りのセンスがない。人並みに色塗りができるようになるまでに、10年はかかるなって……。

それなら、今の色塗りの技術のままで、それをうまく使って自分の武器にできるような絵の描き方があるはずだって、その方法を模索をしてたんです。それで、たまたま浮世絵風の絵を描いたらビシッとハマったんです」

▲“鈴木セイゴの絵”にたどり着いた X(旧Twitter)より

「世界に通用する“鈴木セイゴの絵”を生み出す」。そんな大きな目標を掲げ、試行錯誤を続けたセイゴさん。言葉の端々からストイックさを感じる。

「絵を描いてみて、自分で自分の絵を採点するんですよ。自分の中の基準は“鈴木セイゴが、こんなありふれた絵を描いて満足できるのか?”ということ。誰でも思いついて誰でも描けるような絵を描いても、人の目に留まらないじゃないですか。

たくさんのイラストレーターが、絵を描いてSNSに上げるなかで、人の目に留まるのって“違和感”だと思うんですよ。“気持ち悪い”とか“何これ?”って感覚を人にもたせるために、どういう絵にするかっていうのを考えています。

そして、絵を見たときに“これは鈴木セイゴが描いた絵だ”って、すぐにわかるようにしたい。鈴木セイゴしか描かない絵っていうのは、どういう絵なんだろう?っていうことを模索しながら、独自の路線を極めて行こうと思って描き続けてきました」

見る人が想像できる要素を入れたい

セイゴさんのイラストは、ポージングも特徴的だ。通常、人間には無理なポーズを取っている絵もあって、漫画的とも言える。ポーズについてのこだわりを聞いた。

「体のポージングで感情を表現する劇団に興味をもったことがあったんです。ポージングで感情を表現するって、絵や漫画でもできると思ったので勉強しました。感情表現の方法としてポージングを考えています」

『南蛮渡来の板車輪』というイラストは、なんと、スケボーありきではなく、ポーズや構図を先に思いついたんだそうだ。

「あれは、“空中に浮かんでる女の子”っていう構図から入ったんだと思います。そこに、どういう合理性を持たせるかっていうことを考えて、スケボーを入れたんです。そのあとに、昔の日本人がスケボーを見たらどう思うかな? とか想像しながら描いていきました。カッコイイ構図を描きたいっていうのが第一にあるんですよ」

▲躍動感と構図が目を引く X(旧Twitter)より

セイゴさんは、人の表情の変化やモノが動いている様子を見て、絵に活かせないかと考えているそうだ。ここにもストイックさがにじみ出ている。

「日常生活でも、ずっと頭を動かしていて、いろんなことを見て、自分に取り込んでいます。特別な資料をインプットするんじゃなくて、日常にある……例えば、鳥の羽ばたきとか、風が吹いたときの洗濯物のたなびきとか、そういったことを自分の中に入れ続けています。

自分が大事にしているのは、重力とか風力とか運動エネルギーですね。そういうものって、世界共通じゃないですか。女の子の顔の前で、お面が落ちそうになっていて、紐が肩にかかっているイラストがあるんですけど、その絵を人が見ると、お面が床に落ちて、首に巻き付いている紐が落ちていく……っていうところまで想像してくれるんですよね。

見る人の想像の余地を残すような絵の描き方をすると、その人の脳内で動きが加わると思っているんです。なので、絵の幅を広げるために、見る人が想像できるような要素を入れるようにしています」

▲絵の1秒後を感じる X(旧Twitter)より